ある日、君に恋をした。

□目の前の真実を受け入れて
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「それじゃあ、サイ君。ここまで送ってくれてありがとう」

「葵姉さんも元気でね」

「うん。またお盆には帰ってくるから」


知らずのうちにサイ君は車の免許を取っていたらしい。
駅まで送ってもらい凄く助かった。


「葵姉さん」

「ん?どうしたの?」

「ボク、葵姉さんと一緒に店を持ちたいって夢、諦めてないから」

「サイ君…」

「だからあまり遠くに行かないでね」


小さい頃の口約束程度にしか思っていなかったけど、サイ君は本当の夢になったらしい。
まだまだ可愛い弟だと思っていたけれど、こんなに真剣な目が出来るようになっていたなんて。


「私もサイ君に抜かされないように頑張らなきゃ」

「葵姉さんは今のままでも十分だよ」

「ありがとう。それじゃあね」

「うん。ばいばい」


手を振って見送ってくれるサイ君に、同じように返して新幹線に乗り込む。

だんだんと見慣れてきた街に、一週間離れていただけなのに酷く懐かしく感じる。
それだけ実家で過ごした一週間が濃密だったと語っている。

駅に着いてなごみに直行する。
一週間も店を開けてしまうなんて開業以来初めてで、みんなには迷惑をかけてしまった。

お昼を過ぎたなごみはお客様も少なく、丁度よかった。
いつもは裏口から入るが今日は店側から。
少しだけ変な感じがする。


「こんにちは」

「葵さん!」

「おかえりなさい!」


店番をしていた恵美ちゃんと夕夏ちゃんに声をかければ笑顔で迎えてくれて、すぐに奥から野山さんを連れてきてくれた。


「すみません、野山さん。ご迷惑をおかけして…」

「いいのよ。お父さんも無事で良かったじゃない」

「はい」

「今日は帰ってゆっくり休んで、明日からまたよろしくね」


野山さんの言葉に甘えることにした。
お願いします、と3人に頭を下げてなごみを後にする。


家に帰ったら軽食を作って、一週間も家を開けてしまったから、掃除をしてから買い物に行こう。
そして少し早めに夕飯を食べて寝よう。
頭の中でスケジュールを作りながら街を歩く。
当然だが人で溢れかえっている。

信号待ちをしていると目に入った学生服を着た2人の女の子。
化粧もしているし高校生くらいだろうか。

自分にもあったはずの時代なのに随分と昔の事のように感じる。
浸っていると2人の会話が聞こえてしまい胸を抉られるような感覚に陥った。


「やっぱりかっこいいのは波風社長だよね!」

「綺麗な瞳に見つめられたらイチコロ…。一度で良いから会ってみたい!」

「何言ってんの。私達とじゃ住む世界が違うっての」

「だよねー」


波風さんを好きな人は沢山いる。
私もその中の1人に過ぎない。
住む世界が違うのも分かっている。

忘れなくちゃいけない事くらい。
これは叶わない恋なんだって事くらい。




 

(目を逸らすことは出来ないから)




 

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