ある日、君に恋をした。

□キスは始まりのサイン
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いつもより少し時間がかかって出来上がった昼食。
メインは波風さんが作ってくれたロールキャベツ。
そして付け合わせに蓮根の挟み揚げとかぼちゃのサラダ。
あとはきのこのお味噌汁。


「美味しそうですね」

「ん、そうだね」


盛り付けも終わりテーブルに並べて。
向かい合うように座り、手を合わせる。


「「いただきます」」


重なった言葉に少しだけくすぐったくなったり。
波風さんも同じだったのか、ほんのりと染まる頬を見て嬉しくなったり。

まずは波風さんが作ってくれたロールキャベツから食べる。
波風さんが心配そうにこちらを見ている。


「美味しいです、とても」

「ほんと?」

「はい。凄く愛情を感じられます。こんな美味しいロールキャベツは初めて食べました」


決してオーバーに言ったつもりはない。
本当に美味しい。
今まで作る側だったから感じられなかった作ってくれた側の愛情がひしひしと感じられる。


「葵の作ってくれたものはやっぱり美味しいね」

「ありがとうございます」


作った物を美味しいと言ってくれるのはとても嬉しいけど。
波風さんに言われると嬉しい以上に幸せになる。

波風さんはずっと美味しいと言いながら食べてくれて、あっという間に完食した。

食後のお茶を入れようとしたら波風さんが「これくらいはやるから座ってて」と言ってくれたのでお言葉に甘えることに。
ソファーに腰を下ろして波風さんを待つ。


「はい、どうぞ」

「ありがとうございます」


匂いからしてさっき飲んだ紅茶とは違う種類のものだろうか。
ハーブ系の匂いがする。


「これも美味しいです」


紅茶に詳しくない私には美味しいか不味いのどちらかの感想しか言えないけど、これはとても美味しい。


「よかった」


気のせいだろうか。
さっきよりも波風さんの距離が近くなったような気がする。

嫌な感じはしない。
むしろ嬉しい。
でもやっぱり恥ずかしいのだ。


「…明日からまたお仕事忙しいんですか?」

「…ん、来月重要な企画があって、それに向けて準備があるんだ」

「そうですか…。あの、無理だけはしないで下さいね」

「ありがとう、葵。もし辛くなったら会いに行ってもいいかい?」

「えっ…」

「駄目?」


目の錯覚だろうか。
可愛らしく首を傾げる波風さんの頭にたれ耳が見えてしまうのは。
格好いいしか知らなかった波風さんの意外な一面は、私に大ダメージを与えるには十分だった。


「っ、だ、駄目じゃない、です」

「ん、それじゃあ遠慮なく会いに行くよ」


近かったはずの距離が更に近くなった。
どこに視線を動かしても波風さんしかいない。


「ずっと一緒にいられたらいいのに」

「…っ」

「ね、葵」

「いられますよ、きっと…。私が波風さんを嫌いになることなんかありませんから…」

「…すごい殺し文句だね」

「え?」


顔を真っ赤にする波風さん。
何か変な事を言ってしまっただろうか。
しかしその心配は杞憂に終わった。


「オレも葵を離すつもりはないから」


波風さんの手が私の顎を頬を髪の毛をなぞって後頭部まで辿り着く。
その手に僅かに力が入れば呆気なく波風さんとの距離はゼロになり。

優しいキスが振ってきた。




 

(甘い甘い時間が、ほら。)




 

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