ある日、君に恋をした。

□束の間の休息
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お昼のラッシュが終わり、レジをお願いしていたサイ君にお礼を言って厨房の方へ仕込みへ回ってもらう。

もう少しすれば私とサイ君もお昼休憩だ。
そういえば恵美ちゃんと夕夏ちゃんは商店街に出来たばかりのパスタ屋さんに行くって言っていたっけ。
私も気になっていたから感想を聞いて、今度行ってみようかな。
そんな事を考えていたら。


「葵さーんっ!!」


恵美ちゃんと夕夏ちゃんが戻ってきた。
まだ少し休憩時間があるというのにどうしたんだろう、と声をかけようとしたが、その前に恵美ちゃんが「見て下さい!」と目の前に何かのチケットを突きだしてきた。


「恵美ちゃん、ごめん…近すぎ…」


見てと言われてもあまりの近さに焦点が合わない。
興奮している恵美ちゃんを隣にいる夕夏ちゃんが落ち着かせて。
再び差し出してきた物を見る。


「京都、4泊5日。ペアチケット?」

「今商店街でくじ引きやってて、京都旅行当たったんです!ペアチケットが2枚」

「すごーい!」

「今日、占いが1位だったんでやってみたら当たっちゃいました」


当たっちゃいました、で簡単に当たるようなものではないから、本当に凄いと思う。

(ということは恵美ちゃんは近々お休みか…)

3人でもやれるから恵美ちゃんには旅行を楽しんでもらいたい。


「てことで、これいつ行きます?」


だから恵美ちゃんにそう言われた時には目をパチクリさせるしかなかった。


「えっと、ご家族とじゃないの?」

「4人で行きましょうよ!ペアチケットが2枚あるんですから」


恵美ちゃんの申し出は凄く有り難いけど、せっかくの京都旅行だから家族と楽しんでほしい。
その事を話せば。


「いーんですよっ。私の家、5人家族ですし、どうせみんな予定合わないんで」

「でも…」

「葵さんはいつも頑張りすぎですよ。たまにはリラックスと思って恵美の言葉に甘えましょう」


いつもは止める側の夕夏ちゃんも、恵美ちゃんに賛同してきたため逃げ場がなくなった。
うーん、とチケットを手に悩んでいると、後ろからサイ君が覗き込んできた。


「ここ色々あったし、たまにはゆっくりしようよ」


完全に3対1になってしまった。
目をキラキラさせた恵美ちゃんの表情は普段と変わらないものの、瞳の奥からはワクワクが伝わってきた。

お店を休むことになってしまうのはいつも来て下さるお客様に申し訳ないけど、普段頑張ってくれているみんなが少しでも癒されるなら。


「うん。それじゃあ、みんなで行こうか!」


そう言えばあまり表情を表に出さないサイ君でさえも、口元を緩めて目を輝かせた。

ここを離れれば波風さんに会うこともないし、気持ちもスッキリ出来るかもしれない。
そう思えば少しだけ私もワクワクしてきた。




 

(忘れられるとは思っていないけど)




 

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