”世界の歌姫”、烏合の衆に身を隠す。
□第2話
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飛雄と初めて電話してから数週間が経った、ある日のこと。
そう、いつもと何ら変わりない日。
朝、少し寝坊してお母さんとお父さんに笑われながらも学校に着いて。
昼休み、お弁当は詩織と一緒に食べて。
夕方、部活がある詩織と別れて、偶然出会った及川さんと飛雄に手を振った、1人で歩く帰り道。
…見られている、気がする。
…ていうか、尾けられている気がする。
大通りを帰ろうと、足を向けたその時。
後ろの足音が、突然大きくなってくる。ていうか、走ってる?
咄嗟に逃げなきゃと思い、私も走り出した。
泣きそうになりながら、走り続けた。
もう少しで大通り、という頃、腕を掴まれた。
強い力、恐らく男性の。
一気に血の気が引く。
腕を振るも、その手は離れない。
「いやッ、はな、して…!」
「ねぇ君、朱星晴花ちゃんだよね!新人アイドルの!」
荒い息混じりで言われ、いよいよ泣きそうになった、その時だった。
「…ねぇ、その人嫌がってんじゃん」
はっとして声のした方向を見る。
そこにいたのは、薄い月色の髪をした、少年だった。
「なんだとガキ、黙ってろ」
男が少年に声を上げるが、少年は動じなかった。
「ストーカーでしょあんた。僕の幼馴染みがすぐそこの交番に向かったから、警察の人はすぐ来ると思うよ」
警察、という言葉に、男はぴくりと動く。
「ッ……お、俺は彼女に何もしてないだろ!」
「怖がらせただけで充分被害届は出せると思うけど?おじさん、社会的に死にたいの?」
少年のその言葉を聞き、男は私の腕を離した。
「チッ…!晴花…忘れないからな…!」
恨みの篭った目でそう言われ、体が固まる。
男が去ると、私はその場に座り込んだ。
「…大丈夫ですか?」
俯いた私に、少年が声をかけた。
少し頷いて、唇を噛んだ。
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