”世界の歌姫”、烏合の衆に身を隠す。

□第3話
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尾けられるという被害に遭った、数週間後の金曜日。

昼休み、及川先輩にばったり会った。

会っただけで嬉しくなってしばらく話していると、土日の予定を聞かれた私。



「そだ、土曜日か日曜日暇?」



一瞬ドキッとしながら、私は眉を下げた。



「ごめんなさい…土日は東京に行かなきゃいけなくて…」


「えっ、東京!?」


「はい、土日の間だけいとこに会いに行くんです」



驚く先輩に、再度謝る。


実は、いとこに会いに行くのが第一目的ではないのだ。

日曜日の夜に、東京のとあるドームで開かれる私のライブ。

そのために東京に行くのだ。

詩織以外の人は私がアイドルとして活動していることを知らないから、そう言うしかない。

一瞬ライブがなければ、なんて思ってしまった。


そんな私の心を知らずに、先輩はそっか、と残念そうに告げる。



「土日に試合あるから、晴花ちゃんに見て欲しかったのになー」



先輩の言葉に、なんだか悲しくなった。

本当に、何で及川先輩の試合にライブが被ってるんだろう。

ライブがなければ絶対に行ったのに。



「ふふ、他の女の子にもそう言ってるんですよね?」



行けないことが悔しくて、笑いながら言う。

先輩はそんな私の言葉を聞いて、むすっとして反論した。



「今のは晴花ちゃんにだけだよ?…晴花ちゃんに、俺の活躍見て欲しくて」



及川先輩は、私の目をまっすぐ見つめた。

その目から本気で言ったんだと伝わってきて、疑ってしまったことを申し訳なく思った。

しかし、私の心は休まらない。
先輩の意図が分からないから。

途端に心臓が脈を打ち始める。



「え、っと…先輩、それ、は…」


「…晴花ちゃん、俺、」




「晴花ー!」




その時聞こえたのは、やっぱり、



「…詩織…」


「あっ、ごめんなさ…私、また邪魔しちゃった…」



本当に申し訳なさそうな、彼女の顔。

悪気はなかったんだろうと判断して、及川先輩を見る。



「詩織ちゃん…本当に空気読んでよマジで…」



先輩は力が抜けたように座り込み、詩織に目を向けた。心なしか先輩の顔が赤い。

これは、自惚れても、いいのかな…?

頬が熱を持ち始め、私は何も言えなくなった。

詩織は本当にごめんなさい、と眉を下げて謝った。



「わ、悪気はなかったんだよね、詩織」



私が確認するように問うと、詩織は小さく頷いた。

その姿に、先輩はまぁいいや、と呟く。



「晴花ちゃん、また今度覚悟しててね」



そんな言葉を残していった及川先輩に、今度は私が座り込んだ。









晴花ちゃんが座り込んだのって照れたからですからね!!
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