”世界の歌姫”、烏合の衆に身を隠す。
□第7話
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「………」
体育館の入口の前に立って、その扉を見つめる。
3日間の間に、潔子さんからのメールがあった。
なんと旭さんとノヤが、部活に復帰したのだそうだ。
その場にいなかった私は、少し体育館に入りづらくて。
数分前から、体育館の扉に手を伸ばしたり、その手を下ろしたり。
もともと日直の仕事があって遅れてしまっていたのに、それ以上に心が部活に向かわなかったため、着替えがゆっくりになってしまった。
「…会いたい、のになぁ…」
「…誰にっすか」
突然後ろから聞こえた声に振り向くと、そこには不思議そうに首を傾げる飛雄がいて。
「…、…飛雄…」
「さっきから見てましたけど…入らないんスか?」
「え、み…見てたの!?」
入るかどうか迷ってたところを見られるなんて恥ずかしい…。
こうなったら入るしかなく、飛雄が開いた扉をくぐった。
「そういえば飛雄、なんで遅れたの?」
「…補習っす」
「ああ…」
バレー命の飛雄が部活に遅れているのを不思議に思って尋ねると、苦虫を噛み潰したような顔でそう言った彼。
全てを察した私は苦く笑った。
「ちわっす! 遅れてスミマセン!」
「…こんにちは」
飛雄に続いて挨拶をして入ると、みんなが「おつかれー」など声を返してくれた。
その中に、元気いっぱいな声と申し訳なさそうな声があった。
「晴花ー! 久しぶりだな!」
「…晴花ちゃん…久しぶり」
ノヤと、旭さんだ。
二人に会った瞬間、部活に向かわなかった気持ちとか、すぐにこの部を辞めなくてはいけないという気持ちとか、寂しい気持ちとか、全てが吹き飛んで。
泣きそうなくらい、嬉しかった。
再び二人が、部活に戻ってきてくれた。
それだけで、私の表情が緩んでいた。
「…おかえりなさい、旭さん、ノヤ」
「おう! ただいま、晴花!」
「…ありがとう、晴花ちゃん」
その言葉だけで、大丈夫だって思った。
ストレッチを始める飛雄と別れ、潔子さんの元に駆け寄った。
「潔子さん、お疲れさまです。 遅れてすみません」
「ううん、大丈夫よ。 日直お疲れさま」
ふんわりと笑ってくれた潔子さんに私もありがとうございます、と笑った。
「…旭さんとノヤさん、戻って来てくれてよかったです」
「…うん。 やっと全員揃ったね」
そう言う潔子さんは本当に嬉しそうで、私も嬉しくなった。
「…体調は大丈夫?」
その言葉に、思い出した現実。
私は、この部を辞めなければいけない。
「…大丈夫です。 すみませんでした」
「大丈夫ならよかった。 無理しないようにね」
潔子さんは本当に優しい。
私は再三お礼を言って、ぺこりと頭を下げた。
それから武ちゃんが連れてきたという烏養コーチが現れ、自己紹介しあって。
いつもの部活が始まった。
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