”世界の歌姫”、烏合の衆に身を隠す。
□最終話
3ページ/8ページ
・
最近転校してきた、隣の席の彼女は、アイドルらしい。
おれはあんまり興味がないけど、クラスの人達にとっては興味の対象みたい。
たまにほかのクラスやほかの学年から、彼女を見に来る人もいる。
彼女は彼女に話しかける人すべてに、親切に対応していた。
殊勝な心がけだな、なんて、彼女の持つ性格と正反対の性格を持つおれは思った。
彼女とおれの席は、窓側のいちばん後ろ、彼女が窓側。
授業中にふと横を見ると、彼女は窓の外をぼんやりと眺めていた。
「………」
その目線に、少しだけ興味が湧いた。
小さなメモ用紙に、"何見てるの"とだけ書いて彼女の机に投げた。
それに気づいた彼女が驚いたようにおれを見たけど、その時にはおれは黒板を見ていた。先生に目をつけられたくないし。
"空。 今日すごくいい天気だよ"
おれの字の下にそう書いて、彼女はおれの机にそれを置いた。
(…空)
おれも見てみたけど、なんの変哲もない青空で。
彼女はどの空を見てるんだろうか、と思った。
おれと彼女の授業中の文通は続いた。
授業中じゃないと彼女はだれかに囲まれているし、おれにその中を割って入る勇気はない。
文通で、彼女は色んなことを教えてくれた。
ステージに立つ楽しさや誇らしさ、彼女のいた場所の、仲間と呼ぶべき人々の話も。
「研磨、部活行くぞ」
「…クロ。 …いま行く」
「なんかあったか? ワクワク顔してるぞ」
「べつに、してない」
【ある猫のセッターの分析】
・