黒猫の本棚、短い道のり

□美味しくないけど、
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「あり?名前聞こえてないの?ご飯おかわり欲しいんだけど。」


『え、あ、ごめん、今、持ってくるね!』


「うん」




神威がこうしてご飯を食べるようになったのは、もう半年くらい前の事だ。

冬道で仕事帰りだった私は、家の前に倒れている神威を見つけた。

凄く焦って、声をかけたら返事があった。



お腹すいた




それから急いで家に入って、ストーブ前のこたつに座らせて、
蜜柑の用意をしてご飯を作ったけど、足りない足りない。

独り暮らしなので、冷蔵庫に食材なんて全然無くて、
すっからかんになってしまい、買いに行こうかな、なんて思ってたら、

「ご馳走さま。」

『え、もういいんですか?』

「まだまだ全然足りないけど、お腹の足しくらいにはなったよ。じゃあね。」

『ま、待ってください!』

「なに?」


自分でも分からないけど、引き止めていた。
引き止めたくせに、用事とかは何もなくて、不意に出た言葉が…


『名前、教えて下さい?!』

「なんで疑問系?」


そこは言わないで下さい!
言った本人が恥ずかしいんです!

でも、いきなり名前聞くなんて変かな、いや、いきなりでも無いよね。
ご飯食べてるんだし…

きっと、あのときの私は表情がコロコロ変わっていただろう。
不意に、笑い声が聞こえてきた。


「あはは、君って変な人だね。」

『へっ、変な人って…』


そ、そこまで言われると、少しショック…

「神威」

『え?』

「神威。俺の名前だよ。
あんたの名前は?」

『か、むい…。
あ、私は名前、名字名前です!』


「名前、ね。じゃあ名前。次来るときには、ちゃんと買い置きしておいてね。」
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