神喰

□cocktail.
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月明かりだけがぼんやりと射し込む静まり返ったラウンジ。


日中の賑わいが嘘のよう。


そのラウンジのカウンターで名無しさんは1人、しっとりとカクテル「サケティーニ」を口に運んでいた。


ドライジンに甘口の日本酒をステアしたまろやかな口当たりを舌で楽しみながら、名無しさんは月を見上げた。


今宵は三日月。


「…………シオちゃんからも、地球は三日月型に見えてるのかしら…」


「どうだろうな。
あいつは喰うのに夢中で地球なんて見てねぇかもしれないな」


「……………ソーマ、気配もなしに現れるのは勘弁してくれる?」


「クク……、すまない」


きっと本心からの謝罪ではないな、と名無しさんは思った。

何も言わずに隣に座るソーマの目元にはうっすらとクマが出来ている。


「また、寝ずに仕事をしていたの?」


「ああ、やっとさっき片付いたところだ」


「足らない素材があったらいつでも言ってね。
それくらいは手伝いたいわ」


「ああ、頼む」


こうして想い人に頼られると満更でもない気分になる。

思わず緩む頬を隠すように、名無しさんは底に残ったカクテルをクイっと飲み干した。


「俺も何か飲むか…」


名無しさんが飲んでいる姿を見て、自分も寝酒が欲しくなったソーマは立ち上がろうとする。

が、名無しさんがやんわりとソーマの肩を押さえたため、それは阻まれた。


「座ってて。
私がお酌するわ。
カクテルがいいなら、腕には自信があるの」


「そうか、じゃあ、カクテルを頼む。
お前のおすすめがいいな」


「了解っ」


カウンターの中に入り、名無しさんは酒を選ぶ。


「これと………、あ、これも…」


真剣な顔で選ぶ名無しさんの横顔を、ソーマは静かに見つめていた。
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