花咲くまにまに
□急すぎんだろ
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「あの…………」
「…………………」
「え…っと……、誰か来ちゃいますよ…?」
「もう俺の座敷に通す大尽はいない」
「そんなこと言ったら駄目ですよ…」
白玖さんの姿である桂さんに、白玖さんの座敷の中で抱き締められたまま、一体どのくらい時間が経ったのだろうか。
相変わらず彼の顔はムスーンとしていて、身なりに気を遣う彼の着物は、私を抱き締めることで若干乱れていた。
「あの…、せめて部屋に帰りましょう?」
「…………………じゃあ、俺の部屋」
「!?」
「なに、不満?」
「イイエ、ヨロコンデ」
もうそろそろ裏方が部屋の片付けに来る頃。
未だに不機嫌な彼に手を引かれて座敷を後にした。
ことの発端は、良くあることだが酔った大尽絡みだった。
いつものように白玖さんの座敷に付いて、大尽にお酌をしていたのだが、その大尽の酒癖が大層悪く、身体を厭らしい手付きで一撫でされた上に口元に唇を押し付けられた。
大尽は私の唇を狙ったようだが、私が間一髪で顔を逸らして唇だけは守り通した。
が、その瞬間、今まで大尽の絡みに凍り付いた笑顔で制止をかけていた白玖さんの堪忍袋の緒が切れた。
ドッ…!
という、生々しい音が聞こえたと同時に、赤い顔をした大尽が下に崩れた。
驚いた私が顔を上げると、無表情の白玖さんが冷めた目で私を見ていた。
どうやら渾身の手刀を大尽にお見舞いしたらしい。
気を失った大尽を裏方に連れて行かせた白玖さんは、途端に安心したような、だが苛立ちも露わにした表情で私を抱き締めた。
そして、冒頭になるわけだ。