花咲くまにまに

□心配性?いえ、最早これは病気です。
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名無しさんの記憶は、万珠屋の無駄に広い庭の掃除に取り掛かろうとしたところでプツリと途切れていた。


そして名無しさんが次に目覚めたとき、庭にいたはずの自身は、見慣れた部屋に寝かされていた。



「あ…れ…?私……」


「目が覚めた?」


「わっ、びっくりした…辰義君か」



天井を見上げたまま思考を巡らせる名無しさんの視界に、突如として藤重辰義の端整な面が現れた。


小さく声をあげて驚く名無しさんの顔を、相変わらず読めない表情でじっと見つめる辰義は、どうやら名無しさんの顔色や体調を伺っているようだ。



「えっと…、私、倒れたり…したの?」


「ああ。庭先で、いきなり」


「そっか…」



ああ、そうなんだ。倒れたのか。
と、薄々予想はしていた展開に、名無しさんは納得した。



「私はもう大丈夫。
ごめんなさい。迷惑かけて」


「………」



先程から変わらずじっと自分を見つめる辰義に、名無しさんは無事を報告する。

だが、辰義は全く口を開かず、そして目線も逸らさず、じっと名無しさんを見つめることを止めない。



「?…たつ「心配した」



気になって声をかけた名無しさんに、辰義は被せるように言った。



「あんたが倒れたとき、すごい心配した」


「………うん」


「すごく驚いたし、…心配した」


「うん、ごめんね」



だんだん俯いて、元気のなくなる辰義は、きっと物凄く怖かったのだろう。


いつの間にか握られていた手は、小さく震えている。


辰義の過去を知る名無しさんは、その震えが、自分を失うかもしれないことへの怖れだと分かった。



「っ!」


「大丈夫だよ。

もうこんなに元気だもの。

少し疲れが溜まってただけだから」



辰義が今にも泣いてしまうのではと思った名無しさんは、咄嗟に身を起こして辰義に抱きついていた。


驚いて身を引こうとした辰義の背中に手を回し、優しく抱き締めると、辰義も安心したのか、名無しさんの背に手を回した。



「もう、キツくないの?」


「うん!
ふふ、辰義君に看病してもらったら元気になった」


「…そうか。

なら、良かった…」
























──────
────

「おい、名無しさんはまだ仕事に出てねぇのか」


「うん…、辰兄がどうしても心配みたいで…」


「でも、和助さん…名無しさんが倒れたって言っても、もうそれからひと月経ちますよね」


「っはあ……………ったく…、名無しさんが気の毒だ。
軽く監禁だろ…」















─────

「あの、辰義君?
私ももうそろそろ自分の部屋に戻りたいし、仕事したいんだけど…」


「だめ。
また何処かで倒れたらどうすんの」


「もう大丈夫だって…」


「しつこい。
もうあんたの荷物も俺の部屋に置くことにしたから」


「………………ナンテコッタイ」









end.
(やっぱ辰義君と言えば監禁ですね)
 

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