神威/甘
□短編/神威『嫌いじゃないよ』
2ページ/12ページ
『またいらして下さいね。』
少女はそう言うと、満面の笑みを浮かべ、客の後ろ姿を見送った。
少女の名前は、鈴。
そして、ここは少女がたった一人で営む和菓子屋、『鈴音色:すずねいろ』。
両親は幼い頃に他界しており、鈴は祖母が営んでいたこの鈴音色で暮らしていたが、祖母も他界してしまったため、現在は鈴が一人で営んでいた。
鈴の優しい性格と、持ち前の明るさで店は人気だった。
鈴に会いたいがために、和菓子を食べに来る客も少なくはない。
そして、鈴の作った和菓子が最高に"上手い"。
絶妙な甘さと、色合い。
人々はたちまち笑顔になった。
『…あ、明日の和菓子の材料がないわ。
…もう夕方だし店を閉めて、
買いに行こうかしら。』
鈴は、店ののれんを畳んで、蝶が散りばめられているお気に入りの緑の着物に着替えた。