春の青
□=第二章= 薫る、初夏
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〓第2章〓
――いつからだろう?
気が付くと、いつも視線が彼を追い駆けた。
振り向いた彼の笑顔に心が踊った。
うつ向いた彼の泣き顔に息が詰まった。
――いつからだろう?
この想いが、只の仁義や友情でないと気付いたのは……
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夏侯家の敷地内の北にある小さな離れ。
そこに夏侯惇は居た。
彼は半年前、とある少年と言い争い、殺害してしまったのだ。
殺人の罪に問われた夏侯惇は、逮捕されたものの、1ヵ月後に釈放された。
しかし、事の重大さから、夏侯一族は、彼に自宅謹慎の処罰を与えたのだ。
卓の上に広げられた竹簡を、夏侯惇は長いこと見ていた。
竹簡に書かれているのは『史記』である。
その歴史書の一文から、夏侯惇は目が離せないでいた。
その内容とは――