リク作品

□それぞれの…
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『絶対幸せにする。約束するから』
そう言ったハボックの表情は真剣だった。いつもの様に煙草すら咥えていない事から、いかに本気であるかが分かる。
『そんな事、言われてもなぁ・・・』
エドが、浮かない表情を見せた。
『仕事が忙しくて、なかなか二人きりで会えないのは、オレが悪いと思う。けど、絶対、後悔させるような事はしないから』
ハボックは、切羽詰った顔をしていた。
『いつも、それじゃねーか。いい加減、聞き飽きたんだよ、そのセリフ』
厳しいエドの指摘。軍の建物のロビーのソファに向き合って座っているハボックは、頭を下げる形に低姿勢。上目遣いに相手を見た。
『頼む。オレには君しかいないんだ』
『でもな、オレはもう・・・』
言葉を濁すエド。相手の乗り気でない表情を見て、ハボックははたと思い当たる。
『大佐か!?ひょっとして、大佐に!?』
まさか、大佐に心移りしたのか?それはないだろう。今回こそは、大佐にはばれないように、裏でガードした付き合いだったのに。しかも、今度こそ、本当に良い雰囲気でここまで持ってきて、大佐には邪魔されないと思っていたのに!
『大佐は、駄目だ!あの人は外面が良いだけっス!』
『・・・でも、もうオレ、決めちゃったしなぁ』
そこで、ガバッとハボックは立ち上がった。そして、おもむろに床に膝をついて、土下座をした。正面に座っていた女性に向かって。
『お願いっス。見捨てないで下さい!』
女性は慌てた。それまで、ずっと黙っていたが、ようやく言葉を発した。
『そんな、ジャン、あなたのせいじゃないから・・・』
頭を上げないハボックに、起きてもらうように自らも床に膝をつく。
『やっぱり、大佐なんっスか?』
女性は、俯いたまま、何も言わない。視線を合わせないのは、やはりハボックの追及が核心を突いているのと、その為の後ろめたさゆえだろう。ハボックは、何としても女性の心は自分にとどめておきたくて、苦し紛れの戦略に出た。
『告げ口するようで、気が引けるけど・・・実は、大佐は付き合ってる人がいて・・・』
女性は、下を向いたまま、何も言わない。大佐が付き合っている人がいようがいまいが、思う心には変わりはないって事か。ハボックが、肩を落とす。
『だから!!てめーの大佐なんて肩書きはどーでもいー!オレが言いたいのはっ・・・』
大佐という声に、同時に二人は反応した。さして広くないロビーの壁側にある公衆電話で、さっきから何やらエドが険しい表情で電話しているのは分かっていた。ただでさえ声が反響しやすい室内に、エドの喧嘩腰の口調はかなり響き渡る。ハボックと女性のやりとりの間も、エドの声は時折割って入っていた。
『あー!もううるさい!いつまでも待てるか!切るぞ!』
誰と話しているのかと思えば、相手は出張中の大佐だろう。ハボックは、再び女性の方に真剣な口調で声をかける。
『実は、大佐は、ちょっと問題ありで・・・』
大佐の相手が男、しかも子供だと知ったら、百年の恋も冷めるだろうなぁ・・・
しかし、相手の短所を突いてばかりいても、それでは卑怯者だ。男の名が廃る。本来なら、正面切って正々堂々と人間性で勝負する・・・べきなのだろうが、どんな手を使っても、大佐に勝った例がない。
どうしたものか・・・
ハボックと女性の間に、重い沈黙の時間が流れる。少しでも、他の男に傾いた心を、また自分に向かせるためには、一体・・・
『うるせー!!!言えるかそんな事!』
おおかた、電話の向こうから『愛してる』の言葉でも強要されているのだろう。大佐のやりそうな事だ。
ハボックは、一瞬考えたが、やがてひらめいた。ここは一つ、エドの協力がいる。要するに、エドと大佐がラブラブにくっ付いてしまえばいいのである。その現場を目の当たりにすれば、きっと彼女も大佐を思う心を考え直すかもしれない。
ハボックは、俯く女性には見えないように、電話口で怒鳴っているエドにジェスチャーで合図した。
一方、エドは、同じくロビーのソファに座る男女カップルの存在には気付いていなかったが、何やら自分に向かって大きく身振り手振りで訴えて来た事で、その人物がハボックである事に気付いた。
ー?何言ってんだ?
『うるせー!そんな恥ずかしい事、言える訳ねーだろ。いい加減にしろ!』
口では、電話の向こうの大佐に罵声を飛ばしながら、目はハボックに釘付け。
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