小説

□それぞれの出逢い
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澄み切った空の下を少し大きめのブレザ−に身を包み赤毛の少年は歩いていた。
目的地は本日のメインイベント入学式が行われるお台場高校だ。

×××

学校で配られた新入生の栞に目を通す青年に少女は語りかけた。
「龍ちゃん。何組?」
「2組。黄昏は?」
青年は隣りに立つ15センチ程身長差のある少女を見上げた。
「…8組。また‥別のクラス」
青年の方が目線が低いため例え顔を背けられていてもテンションと共に俯く少女の顔がよく分かった。
「俺、総代だから行くわ」
良く分かったものの自分にはどうしようもないと、たいしたフォローも入れず少女を置いて歩き始めた。
「龍ちゃん。相変わらず冷た−い。てか、黄昏って何よ」
少女は慌てて青年の後を追った。

×××

長い長い式で同じような祝いの言葉を聞き続けて少女は若干気分を損ねていた。
「入学式の話しはつまんないし、髪は決まんないし、光子郎君には会えなかったし、今日はツイてないなぁ」
「それでは校長先生お願いします」
司会の言葉に導かれまばらな拍手と共にヨボヨボの老人が壇上へと上がった。
「え〜 皆しゃん長い話しでお疲れでそう。私からは1つだけです」
プルプルと震える校長は微笑んだ。
「沢しゃん友達を作る必要はありましぇん。1人でいい、心から信じ信頼し許しあえる友を作りなしゃい。しょれはきっとアナタの財しゃんになることでそう」
校長が深く一礼すると、講道館を揺るがす大きな拍手が巻き起こった。
「あのおじいちゃんかっこいい」
少女も皆と同じように手を叩いていた。
「校長先生感慨深いお言葉、ありがとうございます。次は新入生総代表の決意表明です。では、どうぞ」
先程の余韻もあり講道館内を大きな拍手が支配した。
少女も皆と同じく手を叩いていたが、徐々にその様子がおかしい事に気が付いた。
「新入生総代?総代?壇上にお願いします。代表!?」
司会が何度も呼びかけるが、代表らしい生徒の返事は聞こえてはこない。

×××

ざわつく講道館内でお下げの少女だけは代表が名乗り出ない理由がはっきりと分かっていた。
「だから徹夜すんなって言ったのに」
「もう一度言います。総代の生徒は速やかに壇上へと上がって下さい」
司会が必死になって呼びかけるが、喧騒が広まるだけであった。

×××

赤毛の少年は軽く首を捻っていた。
「これだけ騒ぎになってるのに無反応なんて何かあったのかな?」
「そこの男子!起きンか―!!」
「鬼山先生。そんなこと後にして下さい。てか、マイク返して」
若い女性司会者からマイクを取り上げ、男は1番前で静かに着席する小柄な青年を指差した。
少年はそちらを見ようと首を伸ばすが彼の席からでは1つ前の列に座る青年の姿を確認することはできなかった。
「あっちは‥2組かな?」

×××

渦中の総代こと、小柄な青年。青園龍は実に心地よく寝入っていた。
「‥きンか!‥たれ」
途切れ途切れに耳に届く言葉で、青年はようやく意識を取り戻した。
「ふぁ〜 よく寝た」
「起きンか!!バカたれ!」
気持ち良さそうに伸びをする龍に鬼山は音割れしたマイクの声を響かせる。
多くの生徒や教諭、関係者達が耳を塞ぐなか龍は鬼山に微笑んだ。
「先生、僕まだ眠いンで総代の出番までほっといて下さい」
やんわり微笑む龍に鬼山は沸騰したやかんのように怒鳴りつけた。
「教師に向かってほっとけとは何事だ―!!」
「鬼山先生、マイク返して」
女性司会者はマイクを奪い返し、龍に語りかけた。
「君が総代ですね。もう何回も呼んだンですから、早く壇上へ上がって下さい」
龍はあからさまな欠伸をし重い足取りで階段を上る。
「え〜 この度首席で合格致しました青園
龍です。これから3年間よろしくする気もないことを、ヨ・ロ・シ・ク」
薄笑を浮かべ龍は壇上を降りた。
ざわつく講道館内で2人の少女は思った。
「あの子もかっこいい」
「校長の話し、台無し」
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