小説

□それぞれの日常
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2人が出ていった廊下を一瞥した後黄昏はミミを見た。
「お知り合いですか?」
「そう。八神太一さん。小学校が一緒だった1学年上の先輩」
「へぇ〜 年上幼馴染みかぁ〜」
「下衆が」
ニヤニヤとメモを取る龍に黄昏が吐き捨てた。
「おまっ…最近本当に口が悪いぞ」
「私も聞いていい?」
「どうぞ」
龍を無視して黄昏がミミに続きを促す。
「2人は幼馴染みなんだよね?」
「おう。家が隣で幼・小・中と一緒なんだ」
「残念ながら」
「どーいう意味だクラーーー‼」
「ふふふ 仲良いね〜」
くすくす笑うミミの言葉に龍と黄昏は顔を見合わせた。
「嬉しくありません」
「俺も1つ聞いてもいいかな」
「OK」
龍の紳士的な態度にミミは心好く笑う。
「太一さんってどんな人?」
ミミは少しの間腕を組んだ。
「どんなって言われても‥2年でサッカー部のエースで‥」
「勉強は?」
「う〜ん 中の下じゃないかなぁ」
ふむふむと首を振りながら龍はメモを取っていく。
「運動神経バツグンで勉強そこそこ‥いや、対比を分かりやすくするためここはあえて‥」
「青園さん。学校ですよ」
「そうだった。ごめんネ太刀川嬢。俺先にクラス戻るわ」
龍がバタバタと走り去った後、ミミはそっと口を開いた。
「黄昏ってさぁ 龍君のこと好きなの?」
突然の問い掛けに黄昏の思考回路は停止する。渇いた喉から声を絞りだそうとした時、チャイムがそれを妨げた。
「ごめーん。なんか変なこと聞いちゃった今の忘れて」
大きな声と異常に高いテンションに圧倒された 黄昏は黙って何度も首を縦に振るしかなかった。

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準備室の隣にある情報処理室で光子郎は太一と共にいた。
「ワリィなメシの途中で」
「いえ 僕はもう食べ終わってましたから」
軽く手を合わせる太一に光子郎は自分が呼ばれた理由を思案していた。
「球技大会のルールは知ってるか?」
「‥はい」
神妙な面持ちの太一に光子郎もかしこまる。
「男子は7人制のサッカー、女子は‥」
「女子の話しは今はいいや。 そう男子は1クラス2チームで学年ごとのリーグ戦だ」
「はい。1試合10分だけロスタイムなしでしたね」
まるでこの前のHRの復習の様なやりとりに、光子郎は太一が何を言いたいのかまだ理解できなかっ た。
「その後、各学年の優勝クラスとサッカー部でトーナメント戦があることも知ってるか?」
「え? 優勝‥クラス? サッカー部? トーナメント?」
太一の口から次々と出てきた新しい情報に光子郎の思考が鈍る。
「そう。A・Bどちらか一方でも勝ち残って優勝すれば午後からのトーナメントは11人制。だから負けたチームのやつも試合に出れるってわけ」
「なんで最初から11人制でやらないんですか?」
「10分の試合時間と試合数の関係でハーフコートでやるからだ」
ここで太一は一端呼吸を整えわざとらしい咳払いをして光子郎に向き直った。
「んで、ここからが本番なわけでだ光子郎」
「はい」
「優勝賞品はリーグ戦の優勝チームにしか出ない」
「そうなんですか」
「そう。そんでサッカー部員は強制返還なんだ‥食堂のタダ券」
いじいじと急にいじけだした太一を見て言わんとすることは分かったが希望を叶えるのは難しそうだ。
「太一さん。僕は太一さんの力にはなれないと思いますよ」
「勝てそうなチームに入れよ」
悟りを開いたとは真逆の欲に溢れた眼で双肩を掴んできた太一に光子郎はたじろいだ。
「なーたーのーむーよー。俺の財布事情のために」
「私事を隠そうともしませんね」
基本的にこの先輩のことは尊敬しているが、こうも欲に溺れた様を見ると呆れを通り越して疲れが溜まる。
「サッカー経験者だっつって、強いチームに入れてもらえ。この後のHRってチームわけだろ」
ニカッと笑う太一に背筋が凍るような悪寒が走る のを感じた。

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龍は何かに取り憑かれた様にノートを書き続けていた。
「龍君‼ も〜 私の話し聞いてた?」
突然膨れっ面のミミに机を叩かれた龍は驚きと共に顔を上げたがすぐに平静を取り戻した。
「太刀川嬢の席は教室のど真ん中だろ。なんで窓際最前列にいんの?」
落ち着いた口調は紳士の様で、クラスの半数近くの女子がうっとりと眼を瞑る。
「私にも理由は分からないんだけど、このHRの司会を任されたのよ。私」
「前回のHRで爆睡してっからだよ小娘」
パシッと出席名簿でミミの頭を小突いた のは、無精髭を生やした中年だ。
「チトセン。痛いじゃ〜ん‼ 何すんの〜」
担任の海原千歳ミミは泪を溜めて抗議する。
「青園を呼び起こしたことは評価してやるがな、 あたぁ ダメだ。もういいから座ってろ」
「何よそれ〜 オウボウだ〜」
ぶつくさと文句を言いながらもミミは指示に従い席へと戻った。
「さぁて、あたぁお前さんだけだぜ選びな。青春かバクチか」
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