盲目なシナリオ

□第02章【懐】
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昨夜、突然飛び出した仙蔵がちゃんと学園に戻ってきた事に下級生も上級生も安堵した。何の問題も無いと見回れたが、仙蔵が腕に抱えた何か。それが問題の点だ。仙蔵たちが戻ってくるまで門の前で体育委員の小平太と滝夜叉丸も兼ね仙蔵を待つ。そこには心配そうな者も不安そうな者も仲間に連れられた者も好奇な目をした者まで集まった。辺りを見渡すと先生以外の生徒が集まっている気がする。「ほら寄った寄った!!え〜、おにぎりはいらんかね〜!立花先輩が戻ってくるまで腹ごしらえに美味しいおにぎりはどうっスか〜」「こらきり丸!!」一段と騒がしい一年は組の担任、土井先生はこの場の様子見、だろうか。やけに明るい満月に何故か心が躍るような感触。これは戦う前に似たフツフツと込み上げてくる感情だった。...これは何かあるな。思わずにやけた口角を文次郎に気色悪いと言われたので、お前の隈の方が気色悪いと返しておいた

「なんだと!?」
「やんのか!?」

暫く言い合ってると、長次の一言でその場は収まる。ーー来る。確かに長次はそう言った。それが何だと聞かなくても分かり、上に視線を上げると塀に黒い影。風に髪をなびかせているのは間違いなく仙蔵だ。その横には小平太と滝夜叉丸。ああ、やっと戻ってきたか。と笑顔で話しかけようとした時に気付いた

...なんで皆静かなんだ?周りを見渡すとある一点に集中していた。あの文次郎でさえも息を潜めて静かだなんて。明日は槍が降るに決まってる。なんなんだと眉間を寄せたまま周りと同じ所に視線を移すと仙蔵の腕の中に何かがいて、満月の光は吸い込まれていくように十分にその何かを照らした。ひゅっと無意識のうちに息を潜めその姿に目を奪われる。艶やかしい髪に細身な体。奇妙な衣服を着ていたが今はそんなことはどうでもよかった。今にも消えてしまいそうな儚げな雰囲気は目の先にいる女が纏っている独特なモノなのか。それとも今夜の満月がそう思わせたのか。俺には分からなかった



(まるで月のお姫様だ。と、誰かが言った)
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