盲目なシナリオ

□第04章【知】
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今日は何もなかった。それはもうこわいほどに。何も。いつもなら不運の名を最大に轟かせているところなはずなのに。不運が襲ってこないとゆう事にうんぬんと捻りながら三年の長屋に次の授業で使う手裏剣を取りに向かう途中、そして事は起きた。きっとこうなる為に不運が膨張されていただけなんだと今になって思う。ドンと身に衝撃が走り、つい条件反射で目を瞑ってしまった。そのせいで誰にぶつかったのかも確認できずに、そのままカラダが地面に着く。すると感触が無くなり通ってきた地面がポロっと消えた。通ったはずの、地面が。


(どうしてっ、時間差なの!?)

支えをなくしたカラダはいとも簡単に落ちてゆく。大体いつも体験していることだからなのか特に声をあげる事なく、あ、落ちる。と、頭のどこかで冷静に解釈した自分がいた。ああ、痛いだろうな。今度はどこを怪我するんだろう。咄嗟に思ったのはそれ。目を瞑り次にくる衝撃に備える。が、襲ってきたのは包まれるような温かなぬくもり。


「ーー!!」

ドスンッ。大きな音が響き、土っぽさが満面に空中を漂う。「ゴホゴホッ!!」未だ温かい何かに包み込まれながら、舞った砂に噎せ薄らと閉じていた瞼を上げると、まずはじめに目に飛び込んできたのは艶めいている綺麗な髪の毛。


「!?....じ、事務のお姉さん..?」

抱きしめられているこの状況。なぜこうなっているのか。早く穴から出なければ。と様々な事が頭に浮かぶが、今はただ密着している僕のうるさく騒ぎ立てる心臓の音が事務のお姉さんに聞こえないようにと祈る事でいっぱいいっぱいだ

「......、ッ....キミ、大丈夫?」
「だ、大丈夫です、けど...」

ゆっくり回された腕が離れてく中、アナタは大丈夫なんですかと続けて言葉を紡ぐと小さく頷いてくれた目の前の女の人。そして僕が事務のお姉さんに跨るような格好に気づいたのはその時で、急いで立ち上がり退くとお姉さんも立ち上がる。

「た、っ助けてくれて!ありがとうございます!!」

向かい合った状態で先ほど伝えられなかったお礼を言うと、ふわりと柔らかに微かに微笑んだその姿。

(うわ......すごく、綺麗...)

改めて事務のお姉さんを見たら、やはり綺麗だった。昨晩の月夜に照らされていた時、ここに存在しては、居てはいけないような、そんな事を思わせるほど美しかったが、今もそう感じさせるくらいに変わらない

「いえ。...お怪我が無いみたいで、良かったです」
「......あ、あの、助けてもらって、こんな事を言うのは失礼だと思うのですが....なんで、僕の事を助けたんでしょうか....」

失礼な事を聞いたのは十分承知している。だけど知りたかった。 僕たち、少なくとも僕と同じ学年の生徒の大半はこの人に良い印象を抱いていない。学園長先生直々にこの女の人が先の世から来たと仰っていたが、ハッキリ言ってそれを信じられる方がおかしい。先輩たちはどう思っているか分からないが、態度からして下級生たちもそう思っているだろう。間者かもしれない。くノ一かもしれない。突然学園にやってきて、どこから来たかも分からない、ましてや未来から来たと言っている素性も知らない怪しい人を疑わずに信用するなど無理な話だ。

そんな人が何で僕を助けたのか到底理解できなかった。間者が関係者を殺めるならまだしも、助ける、だなんてよっぽどのお人好しなのだろうか。


「どうしてって言われましても...、子供を助けるのは大人として当然でしょう?」

当たり前と、それが当然だと言ってみせたこの人は、きっと、僕が思っていたよりお人好しのアホかもしれない。真っ直ぐで、くノ一に不向きそうで、この時代には似合わしくないくらいな人。思わず笑みがこぼれた


(アナタのこと、もっと知りたいな)
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