盲目なシナリオ

□第04章【知】
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黒く縁取られ、睫毛が長く、吸い込まれてしまいそうな大きな瞳。一握りしただけで折れてしまいそうな細く華奢な肌の白いカラダ。艶やかしく風に靡く長い髪。桜色のぷっくりとした唇。愛しいその姿は一層美しく綺麗になっていた

「これをどうぞ。朝とお昼、ご飯を食べていなかったんですよね?食堂のおばちゃんが心配して、握りを作ってくださいましたよ」
「ありがとうございます。わざわざお手数をおかけしてしまいすみません」

お辞儀までし、丁寧に謝る彼女に包んである握りを渡す。会わない内に礼儀を身に付け、会わない内に俺の知らぬ大人の女性へと変わってゆく。それが余計に彼女との距離を感じさせ、遣る瀬無い気持ちが沸き起こる。いくら俺が成長しようと彼女には追いつかない。俺が大人になるにつれ、彼女もその分だけ大人になる。俺はそんなアナタに少しでもいいから近付きたい

「あの、授業に戻らなくてもいいのですか?」
「あ、は、はい。今日 五年生は午前の授業だけで終わりです」

なかなか握りを食べようとはしない彼女。大方、俺がそばに居るから食べづらいのだと思う。そんな気持ちに気付きながらも、彼女から離れようとはしなかった。やっと二人きりになれたんだ。場所が事務室とゆうこともあって、いつ小松田さんや吉野先生が来るかは分からないが、今こうして彼女と二人きりである事には変わりない

「そう、ですか。...では、い、いただきます」

「どうぞ」

ニコリと先を促すように笑みを向ける。すると包みから握りを取り出し、その小さくぷっくりとした血色のいい唇が僅かに開く。ゴクン、生唾を飲み込む。目の前でただご飯を食べるというだけなのに、どうしてこんなに見ていちゃいけないような感覚がするのだろう。きっと彼女がする事なす事すべて艶やかしく大人の女性の色気が舞い散るせいだ。一口、二口と白い米を食べる彼女の食す物になってみたい、と心の奥底で思った

「....おい、しい」
「ははっ、食堂のおばちゃんが作る料理は天下一品なんですよ」
「ふふ、本当に美味しい。毎日こんな美味しい料理を食べれると思うと幸せですね」
「.......幸せ、ですか?」
「はい。食べて美味しいと感じると、生きているんだって実感なさるでしょう」

控えめに微笑む姿に胸が高まる。
ねえ、名前さんさん。アナタは俺たちのことを覚えていないけれど、俺たちは、俺はアナタのことを忘れた事なんてない。アナタは出会った時よりもずっと魅力的になって、俺には決して届かない所にいる。その瞳が何よりも決定打だ。穢れを知らない汚れを知らない、綺麗な目。

だけど、俺はアナタに追いつきたい、近付きたい、触れたい。汚れきった俺でも、アナタに触れたくてしょうがないんです


「....俺は、久々知兵助、です。」


俺を知ってください。俺の存在を感じてください。俺の名前を呼んでください名前さんさん
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