蜜より甘く

□scene11
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高杉は苛立っていた。
それもその筈。何せ自分にとって愛しい存在である名無し子がここ数日帰ってきていないからだ。
事前に分かっていれば帰って来れなさそうな時はそう言って出掛ける女だし無断でしかも何の連絡もなく帰って来ないような女ではない。
流石の高杉も痺れを切らし名無し子が嫌がると理解しつつも同志に万事屋へ様子を見に行くよう指示を出していたのだった。

「あの女…まさか銀時といい仲になっちまってんじゃねえだろうな」

「し…晋助様。あの…心配なのは分かるっすけど名無し子様に限ってそんな事ないと私は思うっすよ!」

「そうですよ。名無し子様に限ってそれはないと私も思います」

「ほう…おい武市。何を根拠にそんな事言ってんだ。知ったような口利いてんじゃねえぞ」

「はて、根拠なぞ名無し子様を見ていれば分かる事ですけどね。あのお嬢さんの晋助殿を見るお目が心底貴方様に惚れていると物語っていますしこれで分からないなんてとんだ阿呆だと私は思いますが」

「…名無し子は俺をいつもそんな目ぇして見てんのか?」

「ええ。ね?来島さん」

「私っすか?!え…まあそうっすね。名無し子様は晋助様の事本当に愛してるんだなぁとは見てて思うっす」

二人の言葉に気を良くしたのかにっと口端を上げた高杉に武市は内心溜め息を吐き出していた。
ただでさえ名無し子が1日でも帰らないだけでもすこぶる機嫌が悪くなるのにそれがここ数日間続いている状態なのだ。第三者からすればとんだとばっちりであるしいい迷惑でしかない。
それにしてもこの目の前に居る我らが隊長ときたら…
名無し子が来る前はあれだけ禍々しい何かを発しこうして側に居るだけで身震いする程恐ろしい存在であったのにこの平和色したオーラは何なのか。
まさか自分がこの鬼兵隊の隊長だという事を忘れてしまっているのでは?
そう武市が思ってしまう程今の高杉は“ただの男”に成り下がってしまったかのように見えていた。

「失礼します晋助様。今よろしいですか」

「ああ。で、名無し子はどうしてんだ」

「は…はい。それが」

名無し子の名が出た途端表情が曇った同志に高杉は眉を寄せ鋭い視線を向けた。

「…現場を見たのか」

「は?」

「名無し子と銀時がいい仲になっちまってんのをその目で見たのかと俺ぁ聞いてんだよ。チッ…あいつ俺以外の男といい仲になりやがって…この俺を裏切ったその報いを受けさせるしかねえな」

「おお…落ち着いて下さい晋助様!そうじゃありませんっ」

「んじゃ何だよ」

「はい。実は…」

同志の口から聞かされたのは思ってもみなかった事だった。
名無し子は仕事中重症を負い入院していると聞き高杉は更に眉間の皺を濃くした。
これでも自分は誰より名無し子が刀の腕が立つと知っているつもりだし何よりもあの銀時が側に居て名無し子に重症を負う程の怪我をさせるとは思えない。という事は名無し子は銀時が自分の事に巻き込まれないようにと1人で相手をしにいったのかもしれないし名無し子がそういう性格だと十分承知している。怪我をさせられたという事は名無し子の中では怪我をさせられる程動揺する何かがあったに違いない。
そう考えれば行き着く先は1つの理由しかないだろう。






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