蜜より甘く

□scene14
1ページ/8ページ

その日名無し子は万事屋からの帰り道上機嫌で帰路に着いていた。
下の階のスナックお登勢の主で万事屋の大家でもあるお登勢に高級な酒を貰ったからだ。
お登勢とはあの日の一件以来とても仲が良くお登勢も名無し子を気に入り大変可愛がってくれているのもありこうして度々貰い物をする事があったが今回のこの酒はスナックの常連客から貰った物で自分の好みではないから良かったらと貰ったのだがこの酒は自分は勿論の事高杉が大層気に入っている酒でもあり高杉の喜ぶ顔を考えただけでも口元が緩んできてしまうのだ。

『ふふ、晋助喜んでくれるかな』

手にぶら下がる袋を見下ろしてはにこにこと微笑んでいた名無し子だったが不意に視線を感じ足を止め後ろを振り返ったがそこには誰が居るわけでもなく眉を潜めた。

『また…最近なんかこういうの多いな。晋助が尾行得意な人でもつけさせてるのかな』

名無し子は悪い意味で高杉のお蔭で尾行される事にはすっかりと慣れていたがそれにしたってここ数日こうもねっとりとした視線を向けられると流石に気持ち悪くもありいい気分はしない。

『…帰ったら晋助に文句言わなきゃね』

そう呟きながら名無し子は再び足を踏み出し一応念のためにその視線の主を撒くようにわざと遠回りをしつつ拠地へと帰っていった。

『ただいま戻りました』

「お帰りなさい名無し子様」

『…武市さん』

「おや、どうなさったんですか?貴女様が私の事を見てそんなほっとしたような顔を見せるなんて」

『いや、ほら何て言うかねっとり変態を見たあとは本物の変態を見ると妙に安心するというか…』

「いや、変態じゃねえって。だからフェミニストだって言ってんだろ」

『あはは、ごめんなさい。そう怒らないで下さいよ』

やけに“フェミニスト”に拘る武市に名無し子は口先ではそう謝ったが武市のどこをどう見てもどの発言を聞いていてもロリコン変態としか思えないですよ、とは思ってても流石に口に出して言える筈もなく少々機嫌を悪くする武市に笑ってみせた。

『あ、そうだ。ねえ武市さん』

「なんでしょうか」

『あのですね、最近この隊にやたらと気配消すの上手い方が入ったりしてませんか?』

「気配を?いえ、そもそも最近同志になった方なんていませんけどどうかしましたか」

『いえ、いいんです。気にしないで下さい。それじゃあ』

「お待ち下さい名無し子様」

『はい?』

「心配事なら最悪な事態になる前に晋助殿に相談なさった方がいいですよ」

武市にそう告げられた名無し子はきょとんとしたもののすぐに笑みを浮かべながらそれに頷き部屋へと戻っていった。






.
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ