蜜より甘く
□scene17
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「あ〜、はいはい待って待って」
『はい?』
「ここが何処か分かってる?お嬢ちゃん」
『…分かってますけどそれが何か』
「分かってるんなら帰れ帰れ。ここはお嬢ちゃんのような何も知らないお嬢ちゃんが来る場所じゃないんだよ」
門番のその小馬鹿にしたような態度と物言いに名無し子は内心ムッとしながらもわざとらしい程ににっこりと笑みを浮かべ門番を見据えた。
『そんな事はありませんよ。ここは真選組でしょ?私はその真選組の副長と一番隊の隊長と知り合いで今日その二人に呼ばれて来たんですから』
「副長と沖田さんと知り合い〜?そういうバレバレな嘘吐いたって駄目だよお嬢ちゃん」
『嘘だと思うのなら証拠を見せましょうか?』
「証拠?」
名無し子は数回深呼吸を繰り返した後に思い切り息を吸い込み両手を口元にあて、腹から大声を張り上げた。
『ト〜シ〜!!そ〜ご〜!!門番さんが私を苛めるんですけどぉぉぉ!!』
「こっ…こら!お前何言って…」
「んだとこらぁぁぁぁ!」
「俺の名無し子を苛めるたぁいい度胸だな。死んで詫びた方がいいでさぁ」
「ひっ…ひぃ!ふふ…副長とお…沖田さんっ…勘弁して下さいぃぃぃ!!」
名無し子の叫び声にいち早く駆け付けた土方と沖田に刀を向けられぶるぶると震える門番にいい気味だと思いつつも少し同情の眼差しを向けていると名無し子の肩が叩かれたので名無し子は首を傾げながら後ろを振り返った。
『あ、貴方は確か…』
「久し振りだな!確か名無し子さんだったか」
『ええ。そういう貴方はゴリラさんだったかしら』
「ちょっ…違うから!つうか俺ゴリラ程毛深くないからぁぁぁぁ!!」
『ふふ、知ってるし少しからかっただけよ。お久し振りです近藤さん』
「全く頼むぜ名無し子さんよぉ。つうかわざわざ足運んで貰って悪かったな」
『いえいえ。新選組って一度来てみたかったから逆に呼んで貰えて良かったくらい』
「はは!そう言って貰えると有難てえな。おいトシと総悟!いつまでも遊んでねえでとっとと行くぞっ。名無し子さん、とりあえず移動するから着いて来てくれな」
『ええ』
門番をこれでもかという位叩き蹴り飛ばし何事もなかったかのように名無し子の両隣に立った二人に近藤は思わず笑ってしまった。
沖田はどうかは分からないが恐らくこの鬼の副長と呼ばれる土方は名無し子に本気でぞっこんなのだろう。
その証拠にさっきだって名無し子の声を聞いた途端物凄い形相を浮かべ部屋から出ていってしまったし今だって煙草を吹かし涼しい顔はしているが名無し子と楽しそうに話す沖田を睨み付けている。
近藤は若い若いとうんうん頷きながらにんまりと笑みを浮かべ3人の先を歩いていた。
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