彼女の愛で方

□プロローグ
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「はい、どうぞ名無しちゃん。ってどうしたの周助。顔が赤いけど」


「な...なんでもないよ」


「おい名無し!兄貴になんて言ったか教えろよ」


『駄目!名無しと周ちゃんしか知っちゃ駄目なの!』


「ふふ、そうなの。それは残念ね」


再び食事を再開させながらそう談笑していると家にチャイムが鳴り響いたので淑子は悪戯な笑みを浮かべた。


「多分清子ね。ふふ、今日は随分早くにお迎えにこられちゃったわね名無しちゃん」


『え〜!やだ!名無しは周ちゃんとお風呂一緒に入ってから帰るのっ』


「お前もう1年生になるんだからいい加減兄貴と風呂入るの止めろよな」


そんな他愛もない事を話していると玄関から神妙な顔をした淑子が戻ってきたので4人は首を傾げてしまった。


「どうしたの母さん」


「それが...」


「それは私から言うわ、淑子ちゃん。名無しも居るし丁度いいし」


『ママ?』


不思議そうな顔をする名無しを抱き上げ椅子に腰を下ろした後清子は名無しを膝の上に乗せた。

「名無しあのね...」


『うん』


「実はパパのお仕事の都合で引っ越しをしなければいけなくなったの」


『お引っ越し?』


「そう。だから名無しは周助君や由美子ちゃん、それから裕太君とは同じ小学校に行けなくなっちゃったの」


「清子叔母さんそれいつ決まったんですか?」


「つい最近ね...主人も最初は断ってたみたいなんだけどどうしてもって言われちゃって」


清子の言葉に由美子は複雑そうな顔付きで頷き裕太と周助も複雑そうな表情をしながら話しを聞いていた。


『...やだもん』


「名無し?」


『名無しはお引っ越しなんて絶対やだ!周ちゃんと離れるなんて絶対の絶対にやだ!!』


「でもね、周助君とずっと会えなくなる訳じゃないし...」


『それでもやだ!名無しはずっとずっと周ちゃんと一緒に居たいの!同じ小学校に通うの!!』


「我が儘言わないで名無し!」


清子の怒鳴り声に肩をはね上がらせた後名無しはくしゃりと顔を歪ませ大きな瞳からぽろぽろと大粒の涙を溢れさせた。


『うっ...うわ〜ん!マ...ママの馬鹿ぁっ!』


「あっ...こら名無し!」


駆け出していってしまった名無しを清子は溜め息を吐き出しながら見つめ椅子から立ち上がった。


「ごめんね淑子ちゃん。私戻って名無しにもう一度話ししてくる」


「ちょっと待って」


「周助君?」


「僕が名無しの所に行くよ。泣いてる名無しを泣き止ませるの僕得意なんだ」


「そう...そうね。私より周助君の方が名無しも落ち着いて話し聞いてくれるかもしれないしよろしくね」


「うん」


周助は椅子から立ち上がりリビングを後にしていった。




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