彼女の愛で方
□Lesson1
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『ありがとう周ちゃん!やっぱり周ちゃんは昔から本当に優しいね』
「優しいのは名無しにだけだよ。他の子に絶対こんな事出来ないししてあげたくないな」
『どうして?』
「それじゃあ名無しが僕の特別にならないから。名無しだって僕が他の子にこういう事するの嫌でしょ?」
名無しの髪の毛をさらさらと弄りながらそう微笑む不二に名無しはコクリと頷いた。
『...嫌かもしれない』
「クス...かもしれないってなに。それは付けなくていいよ」
『あはは、そうだよね』
「ちなみに名無しはどこ行きたい?お腹も空いたでしょ」
『う〜ん...あ』
「どうかした?」
『本当にどこでもいいの?』
「いいよ。名無しが行きたい所ならどこにだって連れて行ってあげるよ」
『じゃあ私周ちゃんちに行きたい!』
「え」
名無しのその言葉に不二は一瞬目を見開いてしまったがすぐに困ったような笑みを浮かべてみせた
『駄目?』
「ううん、全然駄目じゃないけど...名無しはそれでいいの?」
『うん!だって久し振りに叔母さんに会いたいし由美ちゃんのラズベリーパイ食べたいし裕ちゃんにも会いたいしね』
「よく聞いて名無し。今日は母さんも夜にならないと帰って来ないし姉さんも仕事で居ないし裕太は寮に入っちゃってるから家には僕と名無しの二人きりになる。それでも名無しは僕の家に来たいっていうの?」
『え、だって夜には叔母さんも由美ちゃんも帰って来るんでしょ?裕ちゃんに会えなかったのは残念だけど私は周ちゃんが居てくれたらそれだけでいいし』
「そう。名無しがいいって言うなら僕は構わないんだけどね」
苦笑する不二を不思議そうに見つめているとそれに気付いた不二はいつもの笑みを浮かべながら名無しの手を握り締め歩き出した。
「はい、入って」
『お邪魔しまぁす』
不二の家に着いた名無しは玄関からリビングにしたと同時に息を目一杯吸い込んだ。
『懐かしい匂い...あの頃のまんまだ』
「ふふ、そう?それは良かった。ねえ名無し、先に部屋に行ってて。僕はお菓子とか飲み物用意するから」
『あっ、それなら私も...』
「名無しに手伝わせると絶対にジュース溢されるから駄目」
『ひ...酷いよ周ちゃん!それにそれは子供の頃の話であって今は大丈夫だよ!』
「はいはい。それじゃあ部屋でいい子にして待っててね」
不二に頭を撫でられながら軽くあしらわれてしまった名無しは頬を少しだけ膨らませたもののその懐かしさに胸を暖かくさせていた。
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