番外編

□華麗なる高杉様の1日
4ページ/8ページ

「晋助様どうぞ」

「お前の手酌じゃなく俺ぁ紫水の酌で呑みてえんだよ。おい紫水」

「ふふ、はいどうぞ晋助様」

「妬けるでござるな晋助。こんな姿を吉田名無し子に見られたら振られる事確実でござるなぁ」

「おい万斉。さっきから名無し子名無し子煩えんだよ。あいつの名をここで出すんじゃねぇ」

晋助の口からその言葉が出た瞬間私は襖から離れずきずきと傷む胸を抑えた。

どうして?
私の名前出したら何か困る事があるの?
紫水さんが居るから少しでも女が居る事を匂わせないようにしたいのかな。
だってさっきの晋助の声凄く不機嫌そうだったし…

涙が溢れ出てきてしまうのを必死に堪えながら私はお酒を手に取り喉に流し込んでは猪口にお酒を注ぎ、なくなったら再びお酒を猪口に注ぎを繰り返しまるでやけ酒をするようにとにかく自分のこのずきずきと傷む胸を麻痺させるようにひたすらお酒を煽り続けた。

「お客様、お待たせしてすみませんでした。紫水と申し…ってお客様大丈夫ですか?!」

『あ〜、待ってまひたよ紫水ひゃん。大丈夫なのでとにかく一緒にお酒を呑みまひょう』

「は…はあ」

漸く部屋に現れた紫水さんに私は座るよう促しまじまじとその顔を眺めてしまっていた。
うん、これはあれだ。
すっごく美人な人。
そりゃあ晋助も惚れちゃうよね。
私が顔を見つめたまま動かなくなってしまっていたせいか紫水さんは心配そうな表情を浮かべながら私に水が入ったグラスを手渡してくれた。

「お客様、具合がよくないんですか?さあ、お水を飲んで下さいまし」

『あ…ありがとう』

「気持ち悪くはないですか?お背中失礼しますね」

そう言って紫水さんが優しく私の背中を撫でてくれたのでなんだかこうして男装してまで晋助を尾行してきて勝手に盗み聞きして勝手に落ち込んでやけ酒してたのが情けないやら惨めやらで今度こそ私は涙を溢れさせてしまった。

『ううっ…』

「どっ…どうしたんですかお客様」

『ご…ごめんなさい紫水さん。そもそも“私”は貴女に勝てる器じゃないです。“私”は貴女みたいに女性らしくないし気も利かないし…ヒクッ…こんなの相手にしてたらそりゃ貴女を選びたくもなりますよね』

「え…“私”ってお客様…それにもしかしてあなた…」

紫水さんの言葉を遮るかのように突如隣の部屋から食器類が派手に割れる音や男の怒号のような声が聞こえてきたので私は酔いも忘れ紫水さんに小声で身を隠すよう促したあと小刀を取り出し襖を思い切り開いた。






.   
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ