番外編
□華麗なる高杉様の1日
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「なっ…なんだお前は!」
『なんだ?なんだってそりゃここにたまたま来てた客だよ兄さん』
「へっ、だったら引っ込んでな」
『ふざけてるんですかこの野郎。隣の部屋で折角いい女といい雰囲気になってたのにあんたが盛った犬猫みたいにぎゃあぎゃあ騒いでてこちとら1つも集中出来ないから苦情言いに来たんだよ』
「だ…誰が盛った犬猫だ!ふざけた口利いてんじゃねえぞ」
正直この発情期野郎はどうでもいいのよ。それより何よりどうにもさっきからの晋助の視線が痛いし河上さんや武市さんの視線がいやらしいしで気になって気になってもう…
「そんな格好してこんな所で何やってんだよお前」
『お前って誰ですか?そもそも俺は貴方みたいな知り合いは居ないんですけどね』
「惚けても無駄だぜ。俺がお前を見間違えるか」
「ぬしは吉田名無し子でござろう?!どうしたでござるかその格好は。いや、しかし中々男装もいけるでござるな」
「ええ。まさか名無し子様の男装姿がこのようにお美しいとは…」
「おい!俺らを無視してんじゃねえよっ」
どうでもいい内輪揉めに苛立ったのか男達が晋助に向かって一斉に斬りかかってきたので私は晋助の前に立ちにっと口端を上げた。
『おっと、そうはいかないよ。この兄さんを殺すのも殺していいのも俺だけなんだからあんたら雑魚に殺させて堪るかっての』
「ざっ…雑魚だと?!」
『だって雑魚でしょ?俺にこんなに簡単に斬られちゃうんだからさ』
「な…に…?!」
男が気が付く間もなく私は瞬時に男の目の前に移動し男の喉を小刀でかき斬り、それに怯んだ他の輩達も難なく斬り捨てていき全て片付いた所で煙草を取り出しそれを咥え火を付け煙を吐き出した。
『やっぱ雑魚だった』
「お…お見事です名無し子様!素晴らしいっ」
「確かにぬしの剣舞は見事でござるな。いや、流石は拙者が見込んだ女だけあるでござる」
『いや、その…あっ!そ…それじゃあ俺はこれで…』
「待て名無し子」
『ひいっ!』
晋助に気付かれない内にと私が部屋から出ようとすると晋助に肩を掴まれてしまったので私は恐る恐る振り向いた。
『なな…名無し子って誰の事ですかね。お…俺は名無し子なんていう名前じゃ…』
「そうか。ならお前の名はなんていうんだ」
『へっ?!あ…えっと…おっ、俺の名前は権兵衛っていうんですよ!いい名前でしょ?』
「ほう…なら権兵衛とやらに助けて貰った礼をたっぷりとしてやらねえとな。おい紫水」
「なんでしょうか晋助様」
いつの間にか隠れていた場所から出てきていた紫水さんに晋助は意味深な笑みを浮かべながらとんでもない事を口走った。
「この名無しの権兵衛とやらを俺がたっぷりもてなしてやる事にしたから一部屋借りるぜ。金はいくらでも払ってやると店主に言っとけ」
「ふふ、ええ。分かりました。ああ、それから晋助様」
「なんだ」
「晋助様の仰ってた通り名無し子さんは本当にお可愛らしい女性ですね」
『え…名無し子さんって…それに晋助が言ってた通りって?』
「ふん…行くぞ」
『ちょっ…ちょっと!』
河上さんは何故か少しだけ不機嫌そうに、そして武市さんと紫水さんにはにこにこと笑顔を浮かべられながら見送られ晋助に引き摺られるように私は部屋をあとにした。
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