Short Sleep
□月夜の晩に
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それから数日が経ち私は変わりのない日常を過ごしつつ相変わらず仕事をこなす日々が続いていた。
ただ唯一変わったといえばあの晩に出会ったあの人の事が頭から離れてくれないという事だが…
こんなのまるで淡い恋心を抱く幼い少女のようではないかと自嘲の笑みを浮かべながら就業の時間だという事もあり私は仕事仲間に挨拶をしたあと帰路につき家の玄関の鍵穴に鍵を差し込んだ所で眉を潜めてしまった。
『あれ?私もしかして朝鍵閉め忘れていった…?』
仕事仲間からのお墨付きがある位私にはどうやら抜けている部分があるらしくやってしまったなと特に気にする事なくそのまま玄関を開けいつもと変わりなくリビングに向かった所で立ち止まってしまった。
微かに…本当に微かにだがカタリと物音がしたような気がして私はもしや空き巣ではと体を震わせながら再び玄関に戻りそこに立て掛けてあった箒を手に取りゆっくりとリビングに近付き箒を構え思い切り声を上げた。
『だっ…誰なの?!』
「おっと…騒がねえ方が身のためだぜ」
『ひっ…!』
突如背後から聞こえてきたその声に私が涙を浮かべながら固まってしまっていると喉元に突き付けられていた刀が下ろされたと同時に喉を鳴らす声が聞こえたので私は恐る恐る後ろを振り向き目を思い切り見張ってしまった。
『あっ…貴方は…』
「よお。礼とやらをして貰いに来てやったぜ名無し子」
『ど…どうしてここに…え、というかどうやって入ったんですか?!』
「こんな家位の鍵なら開ける事は訳ねえ事だ。それに家をどうやって知ったかなんて野暮な事を聞くんじゃねぇ」
『やっ…野暮って…自分がやってる事が空き巣と変わらないって分かってますか?!何呑気に笑ってるんですかっ』
「クックッ…そんなに怒るこたぁねえだろ。わざわざ会いに来てやったんだからよ」
どうしてこの人はこんなに得意気にしかも自信満々に悪気なくそんな事を言えるんだろうか。
そもそも空き巣紛いな事して私が警察に通報すると思わなかったの?
恐怖がスウッとなくなっていくと共に私は呆れたような溜め息を吐き出し目の前で煙管を吹かすその人を見据えた。
『…とにかく座って下さい。立ち話もなんなので…それから刀をしまって下さいね』
「そんなもんは俺の自由だろ」
『じっ…自由じゃありませんよ!どこの世界に刀を出されて仕方ないですね、いいですよ〜なんて言う人がいると思うんですかっ。大概にして下さい』
「チッ…ぎゃんぎゃん煩え女だぜ。俺ぁお喋りな女は好かねえし俺に惚れて欲しけりゃ従順でしおらしい女になる事だな」
『だだっ…誰が惚れて欲しいなんて言いました?!勝手に私が貴方に惚れてる前提で話しないで下さいっ』
図星をつかれてしまった私は顔を熱くさせながらその人に背を向け買ってきた食材を置こうと台所に向かうとその背後から笑い声が聞こえてきたので私は煩い程に鳴り響く鼓動を手で抑えながら息を吐き出した。
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