番外編

□初めてのキモチ
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『ごご…ごめん清純君!あ…あの…』

「あ…はは。いいよいいよ、気にしないで出て出て」

『ありがとう。…もしもし?あ』

それが誰からの着信だったのか分かってしまった。
だって親とか友達だったらそんなに顔赤くしながら話さないでしょ?
確実に不二君でしょ、その電話。
彼氏には流石の俺でも勝てないっていうのは分かるけど何も俺と居る時にそんな可愛い顔してそんなに可愛い声で話さなくてもいいじゃない。
あ〜…何だか凄くもやもやする。
俺ってこんなに焼き餅妬くようなキャラじゃなかったのに本当にどうしちゃったんだろ俺。
合宿から帰ってきてからテニスの練習してても授業を受けてても、どこに居ても何をしてても俺の中の世界は名無しさんちゃんで支配されてるって言っていい位俺は名無しさんちゃんに夢中なのにな。
ていうかこんな気持ち初めてだしどうこの気持ちを名無しさんちゃんに伝えていいのかさえも分からない。
これじゃあ百戦錬磨の千石君の名が泣いちゃうよ。
俺がのの字を書きそうな勢いで肩を落としていると電話を終えたのか名無しさんちゃんが心配そうな表情を浮かべながら俺の顔を覗き込んできたので俺は目を見張ってしまった。

「びび…びっくりしたぁっ。な…何?」

『え?ううん、何だか元気がなさそうだったから具合悪くなっちゃったのかなと思って…大丈夫?』

「う、うん。大丈夫大丈夫!俺はいつでも元気だよ」

『そ…そっか。それなら良かった』

「さっきの電話って不二君?」

『ええ?!どうして分かったの?』

「はは、分かるよそれ位。だって名無しさんちゃん恋する乙女の顔してたし」

『や…やだ清純君ってば』

「もしかして早く帰って来いって言われちゃったかな」

『う…うん。あの、ここまでくればもう近いしここで大丈夫だよ』

「え?あ、そうなんだ。参考書重いけど家のすぐ側まで持っていこうか?」

『大丈夫。ありがとう』

「いやいや。いいんだよ」

ベンチから立ち上がったあと俺は名無しさんちゃんの手を引き立ち上がらせてあげたあと紙袋を手渡した。
ありがとうと言いながら俺に手を振り背を向けようとする名無しさんちゃんの腕を思わず引っ張ってしまった。
どうしてこんな事をしてしまったのか分からない。
分からないけど君をまだ離したくないと思ったんだ。  
我が儘を言ってこれ以上引き止めるつもりはないけどこれだけは言っておこうと思った俺は名無しさんちゃんの肩を掴みキスを落とした。

『んっ…!』

「名無しさんちゃんにお願いがあるんだ」
 
『お…お願い?』

「うん。あのさ、絶対の絶対に山吹に応援に来て欲しい」

『う…うん』

「応援に来たら亜久津や壇君じゃなくて俺だけを見て欲しいんだ」
 
『き…清純君?』

「それから男らしくないけどやっぱり公園に付き合って貰っただけじゃお礼された気にならないから今度はちゃんと俺とデートして!いいね」

『は、はい』

「うんよし。引き止めちゃってごめんね。もう帰って大丈夫だよ」

『うん。ば…ばいばい清純君』

「ばいばい名無しさんちゃん」
 
俺の突然のお願いに戸惑ってしまいながらも名無しさんちゃんは今度こそ公園を去っていってしまい、俺は名無しさんちゃんの背中が見えなくなったと同時にしゃがみ込み一気に顔を熱くさせてしまった。

「あ〜…俺格好悪すぎじゃない?」

いや、格好悪くたってなんだってあの子とまた会う事が出来るんならそれはそれで結果オーライじゃないか。
というよりきっと名無しさんちゃんの事驚かせちゃったよね。
全く…初めてな事だらけで困っちゃうよね、うん。
けれど名無しさんちゃんが俺にとって初めての女の子ならそれも大歓迎だけどね。
うじうじと考えてもいられないと俺は喝を入れるように自分の両頬をペシペシと叩きながら立ち上がり足を踏み出した。

ねえ名無しさんちゃん。
俺とデートしたらさ、必ず君に清純君とデート出来てラッキーって思って貰えるようなエスコートするからその時は一生懸命デートプラン考えた俺にご褒美頂戴ね?
あ、嫌っていうのはなしだよ。
君に拒否権はないんだからさ。
なぁんてね。
 
 





 
「初めてのキモチ」


end

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