deep sleep

□二人で一人
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ーーside YUKIMURA


それは本当に偶然だったんだ


俺が屋上庭園の花達に水をあげようと人気のない時間を狙って屋上へ上がり扉を開け外に出た瞬間しまったと思った


だって雌豚に待ち伏せされたと思っちゃったから


俺は顔をしかめながら踵を返そうとドアノブを握り締めた瞬間思ってもない言葉を掛けられたから目を見開いてしまったんだ


『あの…ごめんなさい。作業の邪魔でしたら私が屋上から出るんでどうぞお花に水をあげて下さい』


「…別に邪魔とかじゃないけど。君は何をしていたの?」


『私は本を読んでいました。こんな綺麗な花達に囲まれながら読書が出来るなんて最高ですからね』


そう言いながら微笑んだお前に一瞬とはいえ見惚れてしまったんだ


「そうなんだ。俺はてっきりまた…」


『はい?』


「あ…ううん。何でもないから気にしないで」


『え、あ…はい』


「ここにはよく来るの?」


『はい。教室や図書室だと中々集中して読めないので』


「そっか。読書の邪魔してごめんね」


『いえ大丈夫ですよ』


そう微笑みながらまた本に視線を落としたお前になんでだか分からないけどもう少し俺と話して欲しくてゆっくりと口を開いた


「ねえ」


『え?』


「もし良かったらさ水やり手伝ってくれないかな」


『…いいんですか?』


「勿論。手伝ってくれたら助かるし」


『ふふ、喜んで』


…可愛いかもしれない
雌豚なんてどれも同じだと思ってたけどこの子の笑顔は格別だな


俺がジョウロを渡すとお前は嬉しそうに花達に水をやり始めて俺は不覚にもそんなお前にまた見惚れてしまっていたんだ


『あの…』


「…」


『すみません』


「え…あっ、なに?」 


『きゃっ!』


「あ」


俺が見惚れていたお前に急に声を掛けられて俺は驚きのあまり確かあの時お前にホースを向けて水をかけちゃったんだよね


「ごめっ…大丈夫?!」


『…プ』


流石に怒ったかなと思って冷や冷やしてたらお前が急に笑い出したから驚いたんだよ?


『あはは!』


「え…あの…」


『もう!水かけるの私じゃなくてお花達にでしょう?仕方ないんだから』 

 
「…怒らないの?」


『ううん!ちょっと暑かったし水浴び出来て良かったかも。ありがとう』


ありがとうってなに?
何で笑ってられるの?
変だろお前


俺も何だか可笑しくなってきてつい吹き出すとお前も更に笑って目元に溜まった涙を拭いながら一番小さな花に視線を向け可愛いって呟いてたよね


実はあの時可愛いのは花よりお前だよ
なんて思っちゃったんだ


「もし良かったら…」


『はい?』


「本当に良かったらなんだけど名前教えてくれないかな」


『勿論。私、三年A組の名無し名無しさんっていいます』


「え?A組って事は真田と柳生と同じクラスなの?」


『真田君と柳生君の事知ってるんですか?』


驚いたよ
テニス部部長の俺の事を知らないなんてさ
まあそんな所も良かったんだけど


「うん知ってるよ。彼等とは同じテニス部だからね」


『そうだったんですね』


「あっごめん。俺の名前は幸村精一っていうんだ」


『幸村精一君ですか』


「ふふ、ねえ。同じ三年生なんだから敬語は止めない?」


『そうですね。なら改めて幸村君』


「ん?」


『ここにまた読書しに来ていいかな?私この庭園大好きなの』


あの時のお前本当に可愛くてさ
心が奪われたって初めて思った瞬間だったよ
その申し出に勿論俺は即答で返事をしたよ


「勿論。名無しさんだったらいつでも大歓迎だよ」


ってね


「それより制服どうしよっか。凄く濡れちゃってるよね」


『大丈夫。教室戻ればジャージがあるから気にしないで』


「いや気にするよ普通」


『本当に大丈夫だから。それよりもう時間だし私教室に戻るね』


お前はそう言いながらジョウロを片付けて俺に手を振って屋上から出ていこうとしていたので俺は慌てて口を開いたんだ


「名無しさんがよく居る場所は?!」


突拍子もないその質問にお前は笑顔で図書室だよ!と微笑みながら返事をしてくれたよね


ああ駄目だな俺って思った
もうお前を手に入れなきゃ気が済まなくなっちゃったんだ


偶然とはいえあの日庭園に行って本当に良かったと思ってる


あの日からかな
俺がお前に会いたくて庭園や図書室をうろうろし始めたのって





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