蜜より甘く

□scene3
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本当に久し振りな事だった。
自室でうっすらと目を開けた坂田銀時は夢の内容を思い出しながらゆっくりと体を布団から起こしあくびをしたあとぼりぼりと頭をかきながら口元に笑みを浮かべた。

「久し振りにいい夢見たな」

どうしてそんな夢を見てしまったのか皆目見当はつかないがそれはどうでもいい。ただ夢の中ではかつての寺子屋仲間といつでもその中心にいたよく笑ってよく泣く少女と楽しそうに戯れていた。
少女の事は忘れた日はない。あの日戦に出向く自分達を泣きそうになりながら見送る少女に自分と仲間達は自分達が戻るまでここで待つようにと言い残して頭を撫でてやったのを今でも覚えている。
仲間達の何人かは命を落としてしまったが自分達は幸い命を落とす事なく無事で真っ先に寺子屋に戻ったのにそこはもぬけの殻だった。

「あいつぁ何処行っちまったんだか。生きてっといいんだけどな」

そこで一番取り乱したのが意外にも高杉だった。あの男はいつも少女を苛めては泣かせ自分や桂、坂本に注意され面白くなさそうに素っ気なくぷいと顔を逸らす、というのが毎日の日課のようなものになっていた。今なら分かってやれるが高杉はきっと少女を想っていたのだろう。所謂好きな子にはなんとやらだ。桂や坂本、そして自分も少女の事を少なからず想っていた。それが恋愛感情なのか兄心だったのかは分からないが。

「あ〜あ。銀さんちょっとセンチメンタルな気分になっちゃったなぁ」

「なあにがセンチメンタルですか」

「銀ちゃんの場合センチメンタルじゃなくてチンコメンタル鍛えた方がいいアル」

「ちょっとぉぉぉ!銀さんまだ現役だよ?!薬無しでもいける位名前通りにギンギンに元気だよ?!」

「ああはいはい。朝っぱらから禁止用語叫んでないでさっさとご飯食べちゃって下さいね」

「そうアル。久し振りの仕事なのに銀ちゃんのせいで潰されたら容赦なく私がその金玉潰すからな」

二人の少年少女は銀時の絶句する姿をあえて無視をし部屋を出ていった。
あれから銀時は浪人生活をし、そしてここの大家でもあるお登勢と出会いこうして今は“万事屋銀ちゃん”を開き“志村新八”と“神楽”という新たな仲間達と共に依頼を受けては仕事に励んでいた。励むという言い方は少々大袈裟だがこの自由気ままな生活を銀時は気に入っている。元々切羽詰まった生活は好きではないし万屋をやっていればいつかはあの少女に逢えるだろうという思いもあった。

「ったくあいつらは年上を敬えねえのかねえ。教育がなってねえんだよ教育が」

ぶつぶつと文句を言いながらも銀時は伸びをし布団から抜け出し燦々と光が降り注ぐ窓に視線を向け目を細めた。
あの少女の…いや、名無し子の笑顔もこんな感じだったかと再び口元を緩ます。本当に名無し子の笑った顔はこの太陽のように燦々と眩しくて自分達にとっては光のような存在だった。今ももしも生きていてくれているのだったらまたあの太陽のような笑顔を自分に見せてくれたらどんなに嬉しい事か。
またあの二人に馬鹿にされないよう銀時は緩む顔を引き締め自室をあとにしていった。







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