蜜より甘く

□scene6
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『そう…どうしても駄目と言うのね晋助は』

「むしろ俺がそれを許すとでも思ってたのか?そっちの方が驚いちまうんだがな俺は」

煙管の煙を吐き出しながら名無し子を呆れたような視線で見つめる高杉に名無し子は溜め息を吐き出した。

『だって銀ちゃん…というより新八君と神楽ちゃんに是非にって言われてるし私もこのまま何もせずここに居るわけにはいかないし働く位許してよ』

「てんで分かってねえなお前は。俺ぁな、何も働くなとは言ってねえ。ただどうしてその働く場所ってのがわざわざ銀時のとこなんだと俺ぁ言ってんだ」

『え、だって晋助も銀ちゃんの事知ってるしその方が安心だろうなと思って』

至極当然のように真面目にそう告げる名無し子に高杉は思い切り眉間に皺を寄せ名無し子を睨み付けた。

「お前…昔から馬鹿だ天然だ鈍いとは思ってたが全く変わってねえようだな」

『それは言い過ぎなんじゃないかしら?』

「何が言い過ぎだ。まだ優しく言ってやってんだから有り難く思え」

『それより返事は?』

「却下だ。馬鹿でもあるめぇしわざわざ恋敵のとこにお前を送り込む訳ねえだろ」

『恋敵?え、そういう事心配してるなら大丈夫だよ。私にとって銀ちゃんはお兄ちゃんみたいな存在だし銀ちゃんにとっても私は妹的存在だろうし』

「馬鹿かお前は。そらぁ昔の事だろが。今と昔じゃ話が全然違う」

どこまでこの女は鈍いのだろうか。
珍しく自分からこの部屋を訪ねて来たと思ったら突然銀時のとこで働きたいとぬかした上にそれを認めろと自分に懇願するとは鈍い以外の言葉が出てきやしない。そもそもこんなにも美しく成長した名無し子に惚れない男はいないだろうしそれは銀時も例外ではない筈だ。
妹的存在だと?この女は本当に笑わせてくれる。自分の事を何一つ分かっちゃいない。自分がどれ程魅力的でどれ程男を狂わせる色香を持っているのかさえも。
高杉は煙管を置き名無し子の腕を引きキスを落とした。

『ん…晋助…?』

「働かなくたっていいだろ。お前は籠の中の鳥で居りゃいい。大人しく俺に飼われてろ」

『また人を動物扱いして…』

「クックッ…そう拗ねんな。俺ぁただお前の心配してやってるだけだ」

『晋助の気持ちは嬉しいけど私が大人しく籠の中に居るような女じゃないって知ってるでしょ?』

「ふん…お転婆も大概にしねえといつか痛い目見んぞ」

『痛い目見る前に私が相手に痛い目見せる方が早いから大丈夫だし』

「口の減らねえ女だなお前は」

そう面白そうに笑う高杉に名無し子も微笑み返し少しだけ香の匂いが香る胸元に頭を擦り寄せた。
ここまで名無し子が粘るのには当然理由がある。あれ以来何度か万事屋に足を運んでいた名無し子だったが万事屋にはそれこそ様々な客が訪れ色々な依頼を銀時達は請け負っているし何よりあの真選組の沖田や土方が顔を出すというのは魅力的だ。あそこに居さえすればこちらから動かなくても真選組の動向が分かる上色々な客から蛇腹の事も知り得るかもしれないと少なくとも名無し子は思っている。それは高杉の為にも自分の為にもなると思った名無し子は万屋に誘われたこのチャンスをむざむざ逃すつもりはないからこそこれだけ高杉に懇願しているのだ。

『ねえ晋助。お願い』

「まだ言うのか」

『晋助がいいって言ってくれるまで言い続けるつもりだけど?』

「…俺の傍に居るだけじゃ不満だってえのか」

『そんなんじゃないよ。ただ外からの情報も必要なんじゃないかなと思って。ただのお飾りじゃなくて私だって晋助の役に立ちたいの』

「ふん…今度は可愛い事言って俺を懐柔させようってえのか?いい性格してんじゃねえか名無し子」

言葉とは裏腹に嬉しそうな表情を浮かべながら名無し子の髪の毛をさらさらと弄る高杉に名無し子はそんな事はないと首を横に振り笑みを浮かべた。

『ねえ、まだ駄目だって反対する?』

「そらぁお前の今からの態度と奉仕次第ってとこだろうぜ」

悪戯な笑みを浮かべ口端を上げながらゆっくりと顔を寄せてくる高杉に応えるように名無し子もゆっくりと瞼を下げていった。





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