蜜より甘く

□scene7
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まだ日も昇らない内に高杉は部屋の外から近付きつつある気配に目を覚まし隣で気持ち良さそうに眠る名無し子を見据えたあとゆっくりと体を起こした。
その気配に殺気がないだけ幾分かマシだが唯一自分の心が休まるこの時間を邪魔された事に対して高杉は少々腹を立てたがそこはそれ鬼兵隊の隊長だという自覚もあるのでこの穏やかな時間を過ごす事を諦める事にした。

「…こんな日も昇らねえ内から何の用だ武市」

「失礼します。…おや、娘さんもいらしたんですか」

「それぁ皮肉か?分かりきった事をいちいち口に出して言うんじゃねぇ」

「すみません」

高杉に睨まれてしまった武市はわざと肩を竦めてみせると本題をきり出した。

「掴みましたよ」

「例の事か」

「ええ。噂の元は遊郭街からみたいですね。特に江戸一番だと言われているあの店からだそうです」

「ふん…そうか」

「で、いつ動きましょうか」

「そんなもん決まってる。今日中に決まってんだろ」

「分かりました」

「今回は俺も行く。勝手にこの鬼兵隊の名を語った事たっぷりと後悔させてやらねえといけねえからな」

そう妖しく笑う高杉に武市は身震いをしてしまった。
やはりこの人は恐ろしいお人だ。
自分も数知れず人を殺めてきたがこの人程のオーラは出せない。だからこの人は自分達の頭領でありカリスマ的存在なのだが…
しかしこんな殺気を放たれてこの名無し子という娘は何て呑気な事か。起きもせず寝息を立てて寝ていられるなんて流石高杉から寵愛されている女子なだけはある。
呆れと尊敬の眼差しで武市が名無し子を見ている事に気付いた高杉は名無し子の顔を隠すように布団がわりにしていた着物を名無し子の顔に掛け武市を睨み付けた。

「俺ぁ自分の女の寝顔を他の男に見せてやる趣味は生憎ねえんだ。次見たら命はないと思え」

「…失礼しました。来島さんはどうしましょうか」

「遊郭行くのに女は邪魔になるだけだ」

「なら河上さんを呼んでおきましょう」

武市が部屋を出て行ったあと高杉は煙管を咥え紫煙を吐き出しながら名無し子の顔から着物をずらしてやった。

「…呑気な女だぜ。あんな話してる間もぐうすか寝てるなんてよ」

昔からそうだった。
こっちが殺伐とした雰囲気で喧嘩したり話し合いをしてるのにも拘わらずこの女は呑気な顔して寝てたり自分達を見ていたりしていた。
まあそのお蔭で深刻になんのも喧嘩すんのも馬鹿らしくなっちまって結局は終いになってたんだけどな。
そんな事を思いながら高杉はくっと笑い可愛らしい寝息を立てる唇に唇を重ねた。






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