番外編

□月と太陽
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「はい、皆さん。席に着いて下さいね」

ここは寺子屋。
吉田松陽はいつものように…いや、いつも以上ににこにこしながら生徒達の前に立った。そんな松陽の様子にいち早く気付いた銀時は近くに座っていた桂に体を寄せ耳打ちをした。

「ヅラ。今日の松陽やけに機嫌良くねえか?」

「ヅラじゃない。桂だ」

「そんなんどうだっていいんだよ。ヅラはヅラなんだから今更訂正すんなよなヅラ」

「お前は俺に喧嘩を売っているのか」

「…煩いんだよお前ら」

「はっはっは!高杉のその蔑む視線はくるもんがあるのうっ」

「静かにしなさいと言っているでしょう。今日は皆に紹介したい子がいます」

「紹介したい子〜?」

松陽は生徒達に頷いてみせたあと襖に向かって手招きをしたかと思うとそこから1人の少女が不安そうな顔をしながらちょこちょこと松陽の元に歩いてきたので松陽は少女を抱き上げ生徒達の顔を見渡し微笑んだ。

「可愛いでしょ」

「いや…つうか誰だよそいつ」

「そいつじゃありませんよ銀時。この子は名無し子です。因みに私の養女にしちゃいました」

「よ…」

「「「養女ぉぉぉ?!」」」

生徒達の驚く姿に松陽は満足そうに頷き少しだけ泣きそうになっている名無し子を落ち着かせるように抱き締め背中を優しく叩いてやった。

「しょっ…松陽!俺ぁ何も聞いてねえぞっ」

「そうは言っても銀時。泣いている子を放っておくわけにはいかないでしょう」

「だからってやることが唐突過ぎんだよ」

『しょうようせんせい』

「はい、どうしました?名無し子」

『名無し子、ここにいていいの…?』

こぼれ落ちそうな程くりくりとしたその瞳に見つめられた松陽は顔を緩ませ大きく頷きながら名無し子を更に抱き締め、そんな松陽の様子を銀時達は呆れたように見据え溜め息を吐き出した。松陽のお人好し具合も突拍子もない行動をする事も慣れてきたつもりだったのだがどうやらそれは本当に“つもり”だったようだ。

「…松陽先生は何を考えているのだ」

「なんも考えてないんだろ」

「俺も高杉と同じ意見だ」

「おまん達は固いのぉ!もっと気楽に考えたらいいじゃき」

「名無し子?今から勉強をするからそうだね…あの白い髪の毛のお兄ちゃんの所に行きなさい」

『はぁい』

松陽に言われるまま名無し子はとことこと銀時達の所まで歩いていき可愛らしくお辞儀をしたあと眩しい位の笑みを浮かべてみせた。

『わたし名無し子っていうの。お兄ちゃん達となかよくできたらいいな』

「お〜…まあよろしくな。つうかお前目えでかいな」

『へん?』

「や、変じゃねえよ。俺ぁ可愛いと思うぜ」

『えへへ。ありがとう!え〜と…』

「銀時だ。で、こっちがヅラでこいつが辰馬。そんでそこのすましてんのが高杉な」

『ぎんときにヅラにえっとえっと…ううっ…名無し子おぼえきれないかも』

しゅんとする名無し子に銀時達は苦笑してしまいながら1人づつ自己紹介する事に決め、松陽の話などそっちのけで名無し子の近くに座り直しゆっくりと言葉を紡いだ。

「俺の事は銀ちゃんでいいからな。その方が呼び易いだろ?」

『うん!』

「俺は桂だ。ヅラじゃないからな」

『ヅラ?』

「桂」

『ヅラ!』

「か〜つ〜ら!」

『ヅラぁ!』

「…もういい。好きに呼べばいい」

「おまんは名無し子っちゅうたか?儂は辰馬じゃ。言いにくいのなら辰っちゃんとでも呼んでくれ」

『たっちゃん!名無し子の事も名無し子って呼んでね』

ここで名無し子は1人だけつまらなそうに本を捲る高杉に気付き銀時達の間をすり抜け高杉の袖をちょんちょんと引っ張った。大してこの少女に興味の無い高杉は名無し子を威嚇するように鋭い視線を向けた。




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