番外編

□私は貴女が大好きです
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人と人との出会いとは本当に不思議なものだ。
そう思いながら寺子屋の自室で布団の上で可愛らしい寝息を立てている名無し子を吉田松陽は笑みを浮かべ眺めていた。

「名無し子がこの寺子屋に来てもう随分経ちましたねぇ。最初はどうなる事かと思いましたが今ではすっかり人気者になっているようで安心しました」

少女から大人の女性に変わる年頃とはいえ名無し子のまだ幼さを残した子供らしいぷくぷくとした柔らかい頬を指先でつつきながらにこにこと笑みを浮かべていた松陽だったが条件反射なのか自分の指を小さな手で名無し子が握り返してきたので松陽は胸をときめかせながら寝ているのにも関わらず名無し子を思い切り抱き締めた。

「ああ、可愛いですね。本当に名無し子を養女にして良かった」

『ん…しょ…よ…せんせ…』

「おや?寝言ですか。夢の中でも私の名を呼んでいるなんてまた可愛いらしいじゃないですか」

生徒達が居ない事をいい事に松陽はでれでれに顔を緩ませながら名無し子にキスの嵐を浴びせたあと再び名無し子の寝顔をじっと見据えた。

「ねえ名無し子。貴女と私が初めて出会った時の事を覚えていますか?私ははっきりと今でも覚えていますよ」

松陽はその時の事を思い浮かべながら目を閉じた。
出会ったのは用足しついでに立ち寄った少し寂れた町だった。
寂れたというより町が何者かに襲われたのか辺り一面焼け野原のような状態になっていた。
見る限りではまだ襲われて日が経っていないせいか家屋にはまだ微かに残り火が立っており誰か生存者は居ないかと松陽が町中探し回って見付けたのが名無し子だった。

「君、怪我はないですか」

『ない。けどおとうさんとおかあさんのけががひどいの』

「そうなんですか。それでは私が診てあげましょう。貴女のお父さんとお母さんは何処に居ますか?」

『あそこ』

名無し子が指差した方に松陽が視線を向けるとかつてはこの少女の家屋だったのか無惨にも家屋は全焼してしまっていて2体の…否、かつて“2人”と呼ばれた人物達が黒焦げになりそこに横たわっていた。
こんなにも残酷な物をこれ以上少女に見せておくわけには行かず松陽は衝動的に名無し子を胸元にきつく抱き締めた。

『どうしたのおじちゃん。ななしこはお水をはこんでおとうさんとおかあさんにかけてあげないといけないからはなして』

「そう…そうですか。貴女は優しいのですね」

『おじちゃん?ふるえてるけどさむいの?さむくないようにななしこがさすってあげるね』

必死に自分の腕を擦る名無し子のその姿に松陽は溢れてきそうになる涙をぐっと堪えながら名無し子にありがとうとお礼を言い名無し子の小さな手を握り締めた。




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