Short Sleep

□気持ちを伝えて
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『…また来なかった』

私は溜め息を吐きながらそう溢し周りの極々当たり前のように幸せそうに寄り添うカップルを恨めしそうに見据えたあととぼとぼと歩き出した。
私の恋人は普通の人とは違うから当たり前のように一緒に歩いたり出来ないし、ましてや警察に追われている身でもあるからこうして約束をしていてもその約束が意味のないものになる事が度々ある。
今日もその日になってしまい私はガックリと項垂れてしまった。

『その事を承知で付き合った筈なのにやっぱりこういう事が何度も続くと流石に応えるなぁ…』

「おう」

『え?あ、銀さん』

「随分しけた面したおめぇによく似た女がいると思ったらやっぱ名無し子だったか。何かあったのかよ」

『ぎ…銀さんっ』

「おっ…おいおい。何急に泣き出してんだよ」

自分でも何故だか分からないけど急に涙が溢れてきてしまい子供のように泣きじゃくる私を慰めるように銀さんが私の頭を優しく撫でながら万事屋に行こうと誘ってくれたので私はそれに頷き銀さんと一緒に万事屋へ向かった。

「まあ座れよ」

『ヒクッ…あ…ありがとう銀さん』

「いいっていいって。泣いてる女放っておいたら罰があたっちまうかんな」

そう言ってへらりと笑う銀さんに私も漸く泣き止んだ顔で微笑み返した。
銀さんことこの万事屋の主である坂田銀時さんとは私が依頼人としてここに訪ねてきてから妙に気が合ってしまい時々こうして遊びに来る事があった。
銀さんだけじゃなくて新八君や神楽ちゃんともとても仲良くさせて貰っているし何より銀さんにはあの人を紹介して貰って仲を取り持ってくれたりと感謝してもしきれない位色々とお世話になっている。

「おめぇが泣いてたのってヅラの事でか?」

『なっ…何で分かったの?』

「何でってそりゃそんだけめかしこんでる割にあんな所1人で寂しく歩いてたら約束すっぽかされたんだと思うだろ普通」

『…そうだよね』

「あ〜…まああれだ。ヅラからも色々とおめぇとの話は聞いてるし別に庇う訳じゃねえけどあいつぁあいつなりにおめぇの事想ってるみてえだし嫌いにならねえでやってくんねえか」

『それは分かってるつもり。だって桂さんは凄く優しいし私を大切にしてくれているのが分かるから』

そう、分かってるの。
指名手配されている事もその事で出掛ける約束をしていても結局自分は警察に追われる身であり約束を守れない事がある。けれどそれでも私が好きだからそんな自分でも良かったら付き合って欲しいと言われた時には私も桂さんの事好きだし2つ返事でそれに頷いた。
頷いた癖にこんなにも落ち込んで泣いてしまうなんて本当に私はつくづく我が儘な女だと思う。
きっともっと一緒に居たいと、もっときちんとデートして欲しいなんて事を言ったら何て我が儘な女なんだと桂さんに嫌われてしまうかもしれない。
あの人にとって煩わしい女にだけはなりたくないと思っているのに本当駄目よね私って。
そんな事を悶々と考えていると目の前に座っていた筈の銀さんに当然デコピンをされてしまったので私は思わず目を丸くさせてしまった。






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