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□捕まってもしたかった
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『はぁっ…見付けた!』
「チッ…もう見付かっちまったか」
『仮にも真選組の副長が何をやってるんですか!そこを動かないで下さいねっ』
「動くなって言われて動かねえ馬鹿が何処にいんだよ。捕まったら堪ったもんじゃねえからな」
店から出てそう時間を要する事なく土方を見付けた名無しは逃げようとする土方の目の前に素早く回り込み腕を捻り上げ、思い切り土方を睨み付けた。
『私はただ事情が聞きたいだけです。これ以上逃げると罪が更に重くなる事位貴方はよく知っているでしょう?大人しくお縄について下さい』
「ああ、よく知ってるぜ。けど俺とお前の仲じゃねえか。ここは穏便に済ませてくれよ名無し」
『人を殴って騒ぎまで起こしたんですから穏便も何もありませんよ。土方十四郎、暴力行為及び傷害行為で逮捕します』
名無しは手錠を取り出し、それを土方の両手首に付けたあとすっかりと大人しくなった土方を横目に無線で応援を呼んだ。
逃げなければ手錠を掛けるなんて事はしなかった。
それより何よりどうして恋人である自分に何も言い訳をしてくれないのだろうか。
どうしてもっと抵抗をしてくれないのだろう。
何も語れない程自分は土方にとって大した存在でも信頼のおける存在でもなかったのだろうか。
そう考えれば考える程何だか悲しくなってきてしまい、名無しは土方から視線を逸らし向こう側から見える赤色灯のランプをうっすらと涙の浮かんだぼんやりとする視界で眺めていた。
「トシ…悪いがお前は暫くここに居て貰うぞ」
「…ああ」
「まあすぐに解決する事だろうからそう深く考えるな」
「悪いな近藤さん」
「いやいや、牢屋の中ってえのも中々似合いですぜい土方さん。出来れば一生そん中に居て欲しい位でさぁ」
「あ?んだとこら」
「こりゃいい。俺がどんな事言おうともいつもみてえに刀抜く事も出来ねえし今の内に普段からの恨み晴らしておくのも悪くねえかもな」
「総悟てめぇ…」
「よせ総悟。名無し」
『は…はい』
「ここの見張り頼んだぞ。お前もまあそんなに気を落とすな。すぐ解決するんだからな」
『…ありがとうございます局長』
いつも通りの笑みを浮かべた近藤は励ますように名無しの肩を叩き、牢屋の鍵を名無しに手渡し沖田を連れその場を立ち去っていってしまった。
二人を見送ったあと名無しは牢屋の中から恨めしそうに沖田を睨む土方に近付きゆっくりと口を開いた。
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