蜜より甘く

□scene2
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『随分機嫌が良さそうだこと』

「ふん…まあ悪かねえな」

『ねえどうして私には何もさせないの?』

「人を殺してえのか」

『そうじゃないけど…流石に何もせずっていうのはちょっと』

「残念ながら人は足りてるからな」

溜め息を吐き酒をぐっと飲み干した名無し子は煙草を咥え火を点け煙を思い切り吸い込み吐き出した。それを眺めていた高杉は思わず見惚れてしまった。不思議な事に名無し子がする1つ1つの仕草や動作はあまりに上品で色気がありすぎてこうして目を奪われてしまうのだ。思い出に残る名無し子と今の名無し子の姿の違いに高杉は思わず苦笑してしまった。

「そういったのは奴らに教えて貰ったのか?」

『はあ?』

「ククッ…何でもねえよ。ただの独り言だ」

『好きだね、独り言』

「おい」

『なに』

「そんなに暇ならお前に任務与えてやってもいいぜ」

『え』

熱くなってきた体が冷え気持ちが一瞬で引き締まったような気がした。
とうとうこの時がきたか。高杉は一体自分に何をさせるつもりなのか名無し子が妖しく揺れる紫の瞳の中を探るように見据えているとそれに気付いた高杉は喉を鳴らした。

「着物」

『は?着物?』

「ああ。お前それ1着しか持ってねえしそれにその中に着るもんも必要だろ。明日買ってくるといい」

『別にいい。そんなお金ないし』

「そんなもん位俺がくれてやる」

『くれてやるって晋助…』

「残念ながら俺ぁお天道様がある内は外歩けねえから代わりにまた子と買いにいきゃいい」

『ちょっと。勝手に話し進めないでよ』

「俺の言う事に逆らうのか」

『…分かったわよ』

有無を言わせない高杉のその物言いに名無し子は渋々そう返事を返した。この男がこういう目をしてそういう言い方をする時は“はい”以外の言葉を受け付けないという事は誰よりも知っているからだ。呆れたような視線を高杉に向けると高杉は満足そうに目を細めたあと酒を飲み干し酒瓶を手に取り名無し子に差し出した。

「呑め」

『そんなにいらない』

「酔っ払っちまってもう呑めねえってか」

『誰が酔っ払ってるですって?』

「なら呑めるよな」

『当然でしょ』

猪口を付きだし高杉に酒を注げといわんばかりのその態度に高杉は笑いながら猪口に酒を注いでやった。酒瓶を渡すよう名無し子に促され大人しくそれを渡すと高杉の猪口に酒を注いだあとそれを片手に持ち勢い良く酒を煽っては自分で手酌し始めてしまったので高杉は目を見張ってしまう。

「おい…そんな呑み方するもんじゃねえぞ名無し子」

『うるひゃいわねっ。大丈夫だって言ってるでひょっ?!ヒクッ…』

「…ガキかお前は」

こうなってしまった名無し子は誰にも止められない。からかわれるとすぐこうしてむきになってやりきるまでは頑なに言う事を聞こうとしなくなるからだ。それを当然知っている高杉は溜め息を吐き夜空に浮かぶ煌々と光る月を眺めた。

『晋助〜』

「おい…」

『ちょっと膝貸してよ膝!』

「酔っ払いに貸してやる程俺の膝は安かねぇ」

『ケチケチしないでよ』

了承しない内に膝に寝転んできた名無し子に驚きつつもどうせ何を言ってもどかないだろうと諦めた高杉は大人しく膝を提供し名無し子の髪の毛をさらさらと弄ってやると名無し子はそれが気持ちいいのか目を閉じながらそれを受け止めた。





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