蜜より甘く
□scene8
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『ねえ、何処行くのよ』
「もう少しで着くからそう騒ぐな」
未だ止むことのない雨に打たれながら二人は拠地を出てから繋がれたままの手をお互いに決して離すまいと強く握り締めたまま人混みを上手くかわしつつ歩いていた。
『…どんどん街から離れてってるんですけど』
「それでいいんだよ。あんま賑やか過ぎんのも煩くて敵わねえかんな」
『あっ、何か見えてきた』
「あそこが目的の場所だ」
目的の場所と言われ名無し子は思わず目を丸くさせてしまった。目の前に見えるのはお世辞にも綺麗とも大きいともいえない少しだけ古ぼけた神社で人の出入りがないのは手入れのされてない雑草の多さを見れば一目瞭然だった。
「ククッ…まあお前が思ってる事はよく分かるがここに連れてくりゃ少しは思い出すんじゃねえかと思ってな」
『そう言われても…』
「昔よ、俺がお前を苛めた時にお前寺子屋飛び出してこことよく似た神社に迷い混んだ事があったろ」
『あ…そう言えばそんな事あったかも。確かあの時は晋助にお気に入りのぬいぐるみを隠されて頭に来て寺子屋飛び出したんだっけ。うん、そう言われてみればあの時の神社によく似てるかも』
高杉の手を離し懐かしそうに目を細めながら神社を眺める名無し子を暫く見つめたあと高杉は煙管を取り出そうと目線を落とした瞬間自分の足下で元気良く飛び跳ねる“それ”を見つけ久し振りに名無し子をからかいたい欲求が出てきてしまいにっと口端を上げながら“それ”を捕まえ名無し子の肩を叩いた。
「おい名無し子」
『なに?』
「いいもんやるから手ぇ出せ」
『え、うん』
名無し子が何の疑いもなく手を差し出すと高杉は名無し子の手を包み込むように握り締め先程捕まえた“それ”を握らせた。
「いいぜ。開けてみろ」
『なにこれ…ひっ…ひぃ!カエルぅぅぅ!!』
「おっと」
自分の手からカエルが飛び出てきた事に心底驚いた名無し子は持っていた傘とカエルを投げ出し片手をぶんぶんと振りながら高杉にしがみついた。
『ややっ…やだ!ぬめぬめして気持ち悪い!!』
「クックッ…お前相変わらずカエルが苦手なんだな。つうかその顔ったらねえな。やっぱ苛め甲斐あんぜお前」
『ひっ…酷いじゃない晋助“ちゃん”!銀ちゃんとヅラに言い付けてやるから!!』
「言い付けてみろよ。ただし、昔みてぇに銀時とヅラはすぐに駆け付けてくれねえだろうけどな」
『うっ…』
高杉のその言葉に言葉を詰まらせてしまい口を嗣ぐんでいると高杉はそれは楽しそうに喉を鳴らしながら雨に打たれてしまっている名無し子の手を引き神社の屋根に守られているせいか唯一雨があたっていない階段に名無し子を座らせた。
「水も滴るいい女とはよく言ったもんだな。今のお前にピッタリじゃねえか」
『よく言うわよ。晋助がビックリさせるから濡れちゃったんじゃない』
「謝ってやるからそんな怒んじゃねえよ」
名無し子の前髪から滴り落ちる水滴を払ってやりながら微笑む高杉に名無し子は思わず鼓動を高鳴らせてしまい狡いと呟き頬を赤く染め顔を俯けた。
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