東方幽燈園

□夜を迎えに
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……雪弥さんは色々変だ。

まだ全然一緒に居ないのにその輪変が垣間見える。

亡霊になって現れた外来人。
まだここは良いとしよう。
もしかしたら凄い極稀にあるのかもしれない。

しかし、何処でどんな事が起きて寝た後に死神になるのだろう?
どうやって私達に気付かれずに地獄に?
どうやって、どうして死神になれた?
しかも亡霊だった筈なのに最初は体が人間のままだった。

帰ってきたと思えば体は正常に戻っているし。

さっきもだ。
あんな身体能力を有した人間なんて居やしない。
たとえ今が人じゃないにしてもだ。
それに、あれは恐らく力を出しきっていない。

一回だけ私を押し飛ばした時の力は剣を交えた時に使っていたどんな力よりも強かった。

亡霊や死神と言うよりはー

ーーまるで妖怪のようだ。

「妖夢」

いきなり呼ばれて驚く。
わ、私の考えていた事がバレて!?

「あとどれくらいで人里に着くかな? 辺りも暗くなってきて危ない」

「えっと……そうですね。 あと十分程だと思いますよ」

「そんな? 意外と近いんだね」

「最短で一直線に歩いていますからね。 普段はもう少し道っぽい道を歩きますよ」

流石に読心術はないようだ。
話していると礼儀に節度を持って話しているのが分かるし、話術は上手い方だろう。

ふと雪弥さんを見る。
灰色の長い髪はさらさらと風になびき、その端整な顔立ちは女性と見間違える程だ。
なんていうか……女性としても羨ましいかも。
雪弥さん男性だけど!

「妖夢」

「は、はむぐっ!?」

さっきより低めの小さな声でいきなり呼ばれ、声が上擦った瞬間に口を抑えられる。

「ここから南西の方向で誰かが襲われている。 あれは妖怪か?」

南西と言われて見るが、私には鬱蒼と生い茂る木々しか見えない。

「ちっ……! 妖夢、あれは武力で止めても問題ないな!」

雪弥さんが走るので慌てて私も走り出す。
少し走った所でようやく雪弥さんが言っていた姿が見えてきた。
二人の子供に近寄っていくそれは人間ではなかった。

「雪弥さん! あれは間違いなく妖怪です!」

「そうで安心した……!」

雪弥さんが大鎌を構えると妖怪も此方に気付いて、雪弥さんの鎌を下がって避けた。
私は襲われていた子供の前に立つ形で刀の鞘を握る。

「し、死神ぃ!? どうしてこんな所に!」

「丁度周辺警備中でな。 運が悪かったな、あんた」

妖怪は旗色が悪いと見るや、すぐにペコペコとしてきた。

「すいやせん! ここんところ獲物がいねぇもんで食べていけてねぇからついやっちまったんだ! 許してくだせえ!」

なんか……目も少し変だしやけに舌が長い。
なんの妖怪だ?

「……だったらとっとと失せるんだな。 弱い者いじめはいかんからな、お互い」

「へへっ……助かりますぜ、旦那」

妖怪は背を向けるとささっと居なくなった。

「逃がしちゃってよかったんですか!? あの手の妖怪は懲りずにまたーー」

「妖夢」

雪弥さんは少し屈んで私の頭を撫でるとーー

「少し屈め」

と耳打ちをしてきたのですぐに身を屈める。
すると私の上で風が吹いた。

「お前、カメレオンだろ。 便利だなぁ、周囲の景色に擬態できるんだろ?」

「あ、あがが……」

私の上には雪弥さんに首をがっちりと捕まれたさっきの妖怪がいた。
逃げてなかったんだ……!
一度逃げたふりをして……!

「確かに便利だし、有用な能力だ。 ーー僕が相手じゃなきゃな」

雪弥さんは勢い良く妖怪を後ろに投げ飛ばして木に叩き付けた。

「げへぇ……!!」

「安心しろ、殺しはしない。 お前なんか殺してもなんもないからな」

雪弥さんは鎌を木に立て掛けると近くで腰を抜かしている二人の子供に近付いた。
まだ十歳もいくか分からない男の子と更に少し小さい女の子だ。

雪弥さんが前に屈むと子供達のおでこに1発ずつデコピンをした。
涙目の二人に雪弥さんは続けた。

「今回はこれで済んで良かったと思えよ? もしかしたら二人とも死んじゃっていたかもしれないんだ。 ……こんな事、二度とすんなよ?」

「ご、ごめんなさいぃ……」

「分かればよろしい! 妖夢、このまま二人を連れて人里に向かうぞ」

雪弥さんは女の子を持ち上げると肩車をし、鎌を手に持った。

「お前は歩け。 まだ小さくても男だからな」

「……分かった」

……雪弥さんはなんだかんだ厳しいけど、優しいな。
死神なんてものが不釣り合いだ。

私達は新たに二人を連れて人里へと急いだ。









「くげっ……げへへっ……!! 顔はよぉーく覚えたぞ……!」
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