東方幽燈園

□静かな夜
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雪弥邸・二階









「っくう・・・」

目を覚ますと自分の借家の二階だった。
ちゃんと天井の穴も直っている。
一体誰が?

体を起こすと、すぐ近くのとこで魔理沙が座って寝ていた。
僕の看病をしてくれていたのか?

「・・・・・・」

僕は布団に魔理沙を入れて、上から毛布をかける。
そして布団から出て下に降りると予想外の光景が広がっていた。

「あっ、ようやく起きたのね。 はい、あんたの分よ」

下で作り置きの味噌汁を飲んでいた霊夢から味噌汁を受け取る。

「あ、あぁ、ありがとう・・・ この人達は?」

一階にはなんだか見慣れない人達が寝静まっていた。

「あの変態いるでしょう」

「変態? あぁ、偽ジェイソンの事か」

「あれに攫われた人達の家族よ。 今日、攫われていた人達が帰ってきたみたいなの」

「それは良かった。 働いたかいがあったよ」

「それでどうしても礼がしたいって。 二階を直したのも、傷の手当てとかも彼らがしたの」

そう言えば止血や包帯の巻き方がちゃんとしている。
これは医療に覚えがある人の所業だ。

「あと野菜とか家で使わない家具とか、色んな物を持ってきてたわよ」

「別に礼なんか求めてないのに」

「受け取っておきなさい。 こういう時は受け取らないのも失礼よ」

「・・・そうだな。 ありがたくいただいておこう」

僕はコンタクトを付け直し、髪を掻きあげる。

「ところであの透明になったり姿を変えてたあいつは? まだ生きてるだろ?」

「えぇ。 動けなくしてはいるけど」

「着てた服は?」

「勿論回収したけど、ボロボロで使える様な物じゃないわよ」

「構わないさ、僕が貰っても構わないだろう?」

「私はいらないもの。 あんな卑劣な道具」

「辛辣なコメントだね」

「当たり前よ。 近しい人になりすまして近づいてくるのよ? 虫図が走るわ」

「否定はしないが・・・だが、あいつは相手が悪かったな。 僕等を相手にしたんだからな」

「相手を見定めないからよ。 生きてるだけましに思う事ね」

「相変わらず容赦ないな」

「駄目かしら?」

「いや、いいと思うよ。 そういう霊夢の方が俺は好きだ」

「ならいいわ」

霊夢が渡してきたのは本当にボロボロになった黒い布だった。
元がなんなのかも良く分からないぞ。

「縫い合わせれば使えるんじゃない? 多分元通りの能力とはならないけど」

「元通りにはならなくて構わないさ。 誰かになりすますつもりは毛頭ないからな」

黒い布を丸めて横に起き、空いている椅子に座る。

「で、霊夢はどうして起きてんだ? これを見る感じ、もう寝ててもいい時間帯だろ」

「二日酔いも落ち着いてきたし、ちょっと口直しに一人夜酒を楽しんでたのよ」

「嘘だな」

話を聞いて即答する。
霊夢らしくない的の外れた嘘だ。

「一人夜酒に浸る奴がここで味噌汁を飲んでるわけないだろう。 流石に下手な嘘すぎるぞ」

「あー・・・よく嘘だと分かったわね。 本当はーー」

「それも嘘だ。 普段より声が少し高い、内心では焦ってるな」

「読心術でも使えるわけ!?」

「そんなじゃない、人間の癖や声の震え方で判断しているだけだ。 半年近くいつも会っていればおかしいとすぐに気付く。 普段は普通に嘘付いてるから分かりにくいがな」

「私がいつ嘘ついたのよ」

「少なくともさっきはだ。 本当は何を考えていたんだ?」

「・・・あんた達が森の中に落ちていった時の事よ」

霊夢は観念するように口を開くと出て来たのはそんな言葉だった。

「僕達が落ちた時?」

僕と魔理沙が事故を起こして落下したのはさっきの事だ。
それの何を考えていたんだ?

「あんた達が落ちていった時、自分でもビックリするくらい動揺していたの」

「またどうして。 らしくない」

「・・・ああやって空を自由に飛んではいるけど、勿論落ちるのは危ないわ。 ましてやあんな速度でよ。 命に危険がないわけじゃないのよ」

「・・・・・・」

「幸い下が森だったから枝が落下の衝撃を和らげて大した傷もなく助かったわ。 だけど運が悪かったら地面に叩き付けられたかもしれない、太い枝にぶつかっていたかもしれないし枝が刺さっていたかもしれない」

「霊夢・・・」

「自分は大丈夫とか思わないで。 大切な友人を無くしそうになるこっちの気持ちにもなりなさい」

「・・・あぁ。 すまないな、霊夢。 もうこんな無茶は二度としないよ」

僕は霊夢の頭に手を乗せ、優しく撫でた。

「雪弥・・・?」

「ありがとうな、霊夢。 僕はまた同じ事をするところだったよ」

「・・・そうね。 雪弥は既に一度残してきてるものね」

手を頭からさげて霊夢を頬を触れる。
白くスベスベの肌は僕と同じとは思えない。
気付けば僕の顔はとても穏やかな表情をしていた。

「・・・触れられるのは大丈夫なのに、触れるのは随分と慣れているわね」

はっとした表情になり、僕の顔がみるみる赤くなっているのが自分で分かる。
それを見て霊夢は笑い始め、僕は慌てて弁解し始める。

その声で周りの人達が目を覚まし始めて魔理沙も上から降りてくる。

静かだった空間が途端に騒がしくなり、辺りは喧騒に包まれていく。
ーー僕等に静けさは似合わないらしい。
こうして、騒いでいるのが一番らしいのだ。

今日も今日とて、騒がしい夜が幕を開けた。
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