東方幽燈園

□覚める眠り
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「そうね……貴方の気配は私に似ているわね。 つまるところは亡霊。 死んでも生きる執着が強すぎてこうして体の外で生きていくーー」

「死、んだ? 僕が、死んだ……?」

理解が出来ないどころの騒ぎではない。
吐き気がしてきたし、冷や汗が出てくる。

「こんな事初めてよ。 死んだ外来人が現れるなんて」

「そんな事はどうでもいい! 僕が死んでる? 馬鹿を言え! 僕はこうしてここにいるじゃないか!」

「……そうね。 直接教えた方が早いかしら」

西行寺さんが僕の手を掴む。
……冷たい?

「ほら、私の胸の鼓動を感じて?」

西行寺さんの左胸に手がつく。
……感じない。
心臓の鼓動が分からない。

そして、僕の左胸に押し当てられる。
……さぁっと体が冷たくなっていく。
なにも、感じない。

「そうだ、これは夢だ。 いきなりこんな現実離れした事があるわけがない」

「燈さん」

西行寺さんの声でパッと顔をそちらに向ける。
西行寺さんのその目はなにかを物語るかの様に、悲しげに僕の目を見ていた。

……あぁ、これは現実なんだ。
その目を見て改めて認識すると、思わずとも勝手に涙が流れてきてしまう。

すぐに顔を上に向け、涙を拭う。

「いいのよ? 泣いても」

「いえ、泣いてもいられないんです」

「嘘を言わない。 自分の死をそんなにすぐに受け入れられる人間はいないわ」

「なら西行寺さん。 なにも問題はないよ」

僕は自分の頭をブンブン左右に振り、しっかりと西行寺さんを見た。

「僕はもう人間じゃない。 これから自分の人生の余生を過ごす、悲しい霊さ」

西行寺さんはポカーンと呆気に取られたような表情をした後、クスリと笑った。

「貴方、相当異常ね。 実は幻想郷に住んでいたんじゃない?」

「そんな事はない。 ちゃんとーー」

ここで僕はようやく気付いた。

「ーーあれ?」

「急にどうしたのかしら? また汗を流し始めて」

「僕はどうして死んだんだろう? 親の顔も思い出せない。 そもそも親は居たか?」

「もしかしてーー」

『ー記憶喪失』

僕と西行寺さんの声がシンクロし、また僕の気が遠くなった。
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