東方幽燈園

□相反する者
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「早速だけど、あたしは小野塚小町(おのづかこまち)。 本来ならあたしの上司が来る予定だったんだけど忙しくてね。 そんで代役であたしが来たって訳」

「……なんだかよく分かりませんが、死神っていうのは何をするんですか? それ以前に僕は亡霊の筈ではーー」

「あんたが亡霊? あはははっ!なんの冗談だいそれは!」

「いやあの、冗談じゃなくてーー」

「いや、あんた外見の割に中々な大口叩きだね! 気に入ったよ!」

この人、人の話聞かないな!

「ほら、あたしからあんたに餞別だよ」

小野塚さんが渡してきたのは小野塚さんが着ている様な服を青色にしたような着物と、僕の身の丈以上あろう大鎌だ。

「……これ、餞別じゃなくて支給品ですよね」

「ははっ、ばれちまったかい。 あんたの任務は地獄と幻想郷の巡回だよ。 あんまり幻想郷の人達を脅かさない様にしなよ」

「とんとん話が進んでますけど意味が分かりません。 幻想郷の行き方も分からないし地獄の事もよく分からない」

「その為にあたしが居るんだよ。 最初は道とかを教えてやるからちゃんと覚えるんだよ」

「はぁ……分かりましたよ。 そこら辺は任せてください。 道を覚えるのは得意なんで」

凄い流されてる気しかしないが、やることが全く分からないのも事実だから流されざるをえない。

「行きましょ行きましょ。 ところで何処で着替えれば?」 

「今から小舟に乗るからその上で着替えればいいさ。 あっ、それとも今すぐ着るかい?」

「え」

この人は何を言っているんだろう。 中々無茶だろ。

「あんたのそんなボロボロな服じゃ着てるだけ逆にあれだろう?」

「…………」

今になって自分の服をよく見るとボロボロであまり服としての機能を満たしていなかった。
周りばかり見ていて自分の惨状に気付かなかった……!!

僕は今着ている服……という名ばかりの布切れを破いて脱ぎ捨て、貰った着物を上に羽織った。
……この布切れ兼、服が借り物だと思い出したのは既に破り捨てたあとだった。

「豪快だねぇ。 外見とは裏腹に男らしいじゃないか」

男らしいんじゃない。
開き直っただけだ。
ってん?

「外見とは裏腹にって僕が男だと気付いて!?」

「あんた、喉仏出てるし意外と筋肉質じゃないか。 それに、そんなに胸が出てない女はいないよ」

意外とこんなでも観察眼は少しあるらしい。
しかしこれはこれで意外だ。

「初対面はほぼ確実に女と勘違いされるからこちらが驚いてしまったよ……」

小野塚さんは大笑いしながら僕の背中をバンバン叩いてきた。

「大丈夫だよ、雪弥! お前さんはれっきとした男だよ!」

「一体何処でそんなの理解したんですか! っていうか痛いですよ!」

小野塚さんは粗方の予想通り馴れ馴れしく、陽気な性格だった。
まぁ、そっちの方が僕としても楽ですし。





……しかし、こちらとしてはそれどころでは無いのが事実だ。
ついさっき人間から死んで亡霊認定されたと思えば、次はなんと死神だ。
もう意味が分からないどころか種族の端と端を体験した。

流石にここまで目まぐるしいと目を回してたりパニクっている暇もない。

「ーー僕はこれからどうなるんだろう」

「んっ? 何か言ったかい?」

「いや、別に何も」

思わず声に出ていた。
とりあえずーー?
あれ? 誰だっけ?
博霊霊夢でもない。
西行寺幽々子でもない。
魂魄妖夢でもないし小野塚小町でもない。
『誰か』の記憶がすっぽりと抜け落ちている。

「ぐうっ!!」

いきなり走る頭痛。
一瞬だが、凄まじい痛み。

「だ、大丈夫かい!?」

「大丈夫です……少し頭痛がしただけなんで」

多分、こいつが全ての鍵を握っているに違いない。
僕の当面の目的はここに生まれた。
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