東方幽燈園

□蔓延る危険
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「一体何者ですか?」

終わった後、唐突にそんな事を聞かれた。

「初めて大鎌使ったと言う割には普通以上に使えてましたし、筋力とか動きが素人のそれじゃないです」

「別に毎日きちんと筋トレをして、毎日三食食べているくらいだけど」

「それでそんなになるなら色々な人に謝るべきですよ」

うーん……あまりそういうのは話したくはないしな……

「そう言えばなんで二刀持ってるのに一本で?」

「雪弥さんが大鎌を使うのが初めてとの事でしたから私も使い慣れない一本で戦おうと思いまして。 二刀流でしか戦えないのもなんですけど」

それはそれで逆に凄いだろ。
一本を上手く扱えないのに二刀は扱えるのか。

「雪弥さんはなにか剣術とかはお使いに?」

「いや、僕の場合は剣術ならぬ拳術だな」

そう言って僕は妖夢の前に拳を突き出す。

「拳とはまた、刀以上に古典的ですね」

「拳はなんだかんだで人体の内部破壊はやりやすいからね」

「えっ? 内部破壊……ですか?」

壮大に口が滑った。
明らかに引かれてる。

「あー流石に人体には、ね?」

「何相手でもやってたら不味いですよ」

妖夢の言う通りである。
間違いなく警察沙汰になる。

「ともあれ、雪弥さん程の力があれば妖怪相手にも大丈夫だと思いますよ」

「そこで気になる事があるわけだが、質問いいか?」

「なんですか? 私に答えれる事なら」

「そんな妖怪がごろごろいる世界で人間達はどうやって暮らしている?」

妖夢の口振りからして人間は大して強くはない存在なのだろう。
人里と言っても一概に明るいイメージだけではない筈だ。
もしかしたら世界の端で妖怪の影に怯えながら暮らしているかもーー

「人間達はこれから出る魔法の森という場所を抜けた人里に住んでいます。 妖怪も結構出入りしていますし、間違いなく幻想郷で一番活発に動いている場所でしょう」

「……妖怪が出入り?」

呆気を取られてしまう。
なにがどうしてそうなる。

「確かに妖怪には危険な存在が多いですが、全ての妖怪がそうではありません。 それに人間の里は妖怪の賢者に守られているから妖怪も簡単に暴れられないんです」

「……なるほど。 妖怪側としても人間に全滅されたくないわけだ。 全滅すれば、食糧がなくなるからな」

「ご名答です。 幻想郷はこの様な奇妙なバランスで成立しているんです」

つまりは運が悪い人間や外来人が犠牲者になるわけだ。
……合理的なのかも知れないが、僕は気に入らないな。

「ただ、もし妖怪に襲われている人がいたら助けてあげて下さいね。 ……彼等の命は一つですから……」

「……分かってるよ。 死神といえど、目の前で死なれるのは気分が良くない」

僕は立ち上がり、鎌を肩に担いで背を向けた。

「そういう理由じゃーー」

「ーーそれに、置いて逝かれる側は辛いだろうからな」

「ーーッ」

「……さっ、行こうぜ。 夜は待ってくれないからな」

妖夢は僕の言葉を理解したようで立ち上がると僕の前を歩き始めた。

そう言えば、幻想郷の夜を迎えるのは初めてだな。
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