みじかいの

□聖夜と詩人と鬼と
6ページ/14ページ

夜、最近の日課である歌の練習のためにシューベルトさんの部屋に向かった。

コンコンとドアをノックする。


「はい。どうぞ。」


そう言われたがなかなかドアを開ける気になれなかった。

ドアが開かないのが気になったのか、シューベルトさんが、中から開けてくれた。


「なっ、椿さん。酷い顔してますよ。大丈夫ですか?」

「…そんなに酷い顔をしているだろうか?」

「えぇ。話ぐらい聞きますよ。歌の練習は桜さんが来るまでお休みしましょう。中、入ってください。」

「あぁ。ありがとう…。」


あぁ、らしくない。
そう思いながらシューベルトさんに中に入るよう促されたので中に入った。

ソファに腰をかけると、少し待っててくださいねと言われた。

暫らくすると、マグカップが差し出された。
ホットミルクが入っているようだ。


「どうぞ。飲んで下さい。」

「ありがとう…。」


マグカップを受け取りひと口、口をつけた。
少し甘くて美味しい。


「何があったんですか?」

「…聞いても笑わないか?」

「はい。笑わないです。」

「…実は。」


今日の夕方にあったことを話した。
彼は、笑わず聞いてくれた。


「僕は椿さんは充分素直だと思うんですけど…。」

「いや、素直ではないよ。僕は彼みたいに器用でもないしね。」

「そうかなぁ…。」

「うん。」


1つ、話に区切りがついた時シューベルトさんがクシャミをした。

あ、これは。


「おい、娘。そんな辛気臭い顔をするな。」


魔王降臨ですね。
分かってました。


「辛気臭い顔をしているつもりは無い。」

「いや、しているな。何処かの詩人に気をかけすぎだ。」

「…否定は、出来ない。」


確かに、そうだ。
彼に気をかけすぎて書類が進まない。
食欲も最近はない。


「そんな辛気臭い顔をしていると何もかも逃げてしまうぞ。」

「…それがいいのかもしれない。」

「は?」

「だって、僕は中也さんみたいに素直に気持ちを伝えられない。きちんと、好きだと伝えることもほとんど無い。それなら、」

「別れてしまった方がいいと?」

「まぁ…。そういう事だな。」


何て事を思っているのだろう。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ