もしもSAO内で幼馴染と再会したら(仮)

□4結婚
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結婚

傍に居ても良い確約が欲しかった。自分はこの人にとって特別なのだという約束が。
心が渇望する。もっと傍に居たい、居てほしい。この人は自分のものだと言いたくて、願いたくて。
目の前で失われそうになった命。傍に居ることが当たり前だった幼い頃。でも今は違う。互いに成長し、相手がなくてはならない存在なのだと気づく。
その存在を脅かすものから守りたいと思った。守らなくてはならない。その役目は自分だ。
たった一言、言葉にすることで、温かい気持ちになれるのは君だから。
愛してる――、その言葉を君に送りたい。

嫉妬

白い騎士服をはためかせながら親友が経営する武具店へと少女が走る。
昨日から連絡が取れない親友。時々、自分で材料を探しに行くことがあり、今回も圏外へ出かけてしまったと推測した。材料を取りに行くときは一言、声をかけてと言っていたのに。
昨日、一日中探し回り、ついさっき武具店に帰ってきていると分かると、一目散に転移門から走ってきた。
「リズ!」
親友のリズがここにいる。嬉しさのあまり飛びついたが、もうひとり気配があった。
「キ、キリト君!?」
「よう、アスナ」
先日、親友の店を宣伝したばかりだった。もう訪ねてくれたのかと嬉しくなるが、二人の雰囲気がおかしいことに気づく。リズに声をかけようとするが、二人で店番をしていてと言われ、所要があるらしく出かけてしまう。そしてそれを追うキリト。言い知れぬ不安がアスナを襲った。

二人が帰って来てキリトと二人、店を後にした。二人が何を話していたのか気になる。けれど、それを今自分が訊いても良いのだろうか。とぼとぼキリトの後を追うように歩いていたが、転移門が近くなるにつれてアスナの足取りが重くなっていった。
「アスナ…?」
俯いたままのアスナを気にかけて声をかける。どこか遠慮がちに「何でもないよ」と返ってきた。
「じゃあ、私、ギルドに戻るから」
「…ああ」
キリトの横を駆け抜けたアスナは、泣きそうな顔をしていた。

一日中、リズを探して走り回っていたためギルドに一度顔を出した。急ぐ案件を片づけ、残りは明日に回すことを決めて家路につくが、アスナの表情は冴えない。
親友と片思いの相手が一緒に居た。彼女の店を紹介したのは自分。彼は新しい剣が欲しいと言っていたから、昨日は二人で材料を取りに行ったのだろう。
「一晩、一緒に居たってことよね…」
ようやく前と同じように接するようになったのに、二人の様子を見る限り、何かがあったのは明白だった。リズにはずっとキリトの相談をしていた。自分の事は分かってくれていると思う。でも、キリトの方はどうなのだろう。
「もしかして私…、邪魔者?」
嫌だった。ずっと前から彼に恋をしている身としては、今更引き下がれない。自分を見てほしい。後から出てきた人なんて見ないで。醜い嫉妬心が顔を出す。こんな自分を誰にも知られたくなくて、寝室のベッドに顔をうずめ、子どもの様に泣いた。
するとそこに、ポーンとメッセージ音が響く。
片思いの相手と親友との間に揺れ動く今、正直誰であろうとメッセージなんてどうでもよかった。寝ていたことにして後で確認しても差し支えないのだが、根がまじめなアスナはのろのろと顔を上げ、メッセージを確認した。
『起きてるか?』
キリトからだった。本文を目で追っていく。
明日、もし時間があるなら会いたいといった内容だった。
「…………」
いつもなら浮かれる連絡でも、今はそんな気分になれない。自分がリズにしていたように、今度は彼から彼女の話を聞くのだろうか。嫌だ。嫌だ、嫌だ、嫌だ!
そうして二人を遠くから見ることになるかもしれない。黒い感情に流され、嫌な展開しか思い浮かばなかった。結局、キリトに返事をせず、アスナはそのまま眠りについた。

翌朝、アスナはドアをノックする音で起きた。目覚ましもセットし忘れたようで、いつもよりかなり遅い時間の起床となった。
こんな時間に誰だろう。ぼんやりする頭で返事をした。
「俺だ、キリトだ」
「へ!?」
大急ぎで身支度を整え、鏡でチェック。こういう時、仮想の世界ではボタン一つで支度が済むから楽だ。ボタンを連打したからか、いつものギルド服を身に着けドアを開けた。
「お、おはよう、キリト君。どうしたの?」
「アスナこそ大丈夫か? 昨日、返事がなかったから来たんだけど」
「え、ああ…。ごめんね。ちょっと色々あって…」
「そっか。大丈夫そうなら良いんだ。じゃあ、またな」
安心した。アスナの無事が確認され、踵を返そうとするキリト。驚いて思わず引き留めた。
「もう、帰っちゃうの?」
「いや…、忙しそうだし」
「き、今日は良いの! 入って?」
「お、お邪魔します…」
ダイニングの椅子に座り、アスナが出してくれたお茶を一口。アスナも口を潤してキリトを窺った。
「それで…、どうしたの?」
「うん…」
言いにくそうに、どこかそわそわと落ち着かない様子だ。これはいよいよアスナが想像した通りなのだろうか。
「昨日、なんだけど…。もう、大丈夫なのか?」
キリとの質問はアスナの予想の斜め上をいくものだった。
「大…丈夫、って?」
「昨日、泣きそうにしてたから…」
「っ…」
気づいていてくれた。でもそれは自分の醜い嫉妬心からくるものだ。そんな事を正直に言えるはずがない。アスナはひたすら「何でもない」を繰り返した。
「アスナ」
「な、何?」
ぐいっと腕を引かれ、「寝室ってこっち?」という言葉に急な展開で頭が混乱する。寝室に入ると寝るように言われた。有無を言わさない雰囲気だったため、大人しく横になる。
「あの、キリト君?」
そして布団を被せられると、ぽむぽむされた。
「また寝れてないんだろ?」
どうやらアスナが泣いていたのは調子が悪いからだと思ったキリト。低層階でしていたようにベッド脇に座ってアスナが包まった布団をぽむぽむ叩く。
「寝るまで傍に居るから」
現実だったら制服のまま寝てしまうとしわが気になって仕方がないが、ここは仮想。一度ストレージに入れれば汚れも消える。しわなぞつかないだろうが、アスナはウィンドウを操作した。包まったままなので着替えの瞬間はキリトには分からないだろう。
部屋着に着替え、すっかり寝る準備を整えると、キリトのリズムにまどろんでいく。
「…寝るまで、なの?」
傍に居てくれるのは。閉じそうな瞼を必死に止め、じっとキリトを見つめる。
「私、今日…本当はギルドの仕事あったんだけど」
「ご、ごめん! だったら少しだけ寝ていけば良い。寝不足の副団長様は団員がかわいそうだ」
「どういう意味よ、それ」
「冗談です。えっと…、いつまでにギルドに行けば良いんだ?」
「…キリト君が解放してくれたらすぐに行かなきゃ」
「ええ!? わ、悪い…」
「嘘。昨日、ある程度仕事してきたから、今日一日くらいは、良いの」
それこそ嘘だ。一昨日リズを探しまわった分を、昨日ようやく終わらせ、仕事の遅れを取り戻したところだった。けれど、傍に居てくれる好意を反故にしたくなくて嘘をついた。その代わり、今だけは我儘を言ってもいいだろうか。
「私が起きるまで、傍に居て…」
薄れゆく意識の中で、キリトが優しく笑ってくれた気がした。
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