もしもSAO内で幼馴染と再会したら(仮)

□あれ、わたしの存在は?3
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クラインの場合

ギルド・風林火山を率いる頼れるリーダー、クライン。主武器は刀を選び野武士風情の装備をしているが、赤いバンダナは外せないという謎のこだわりを持っている男だ。兄貴肌で頼りがいはあるのだが、何故か女性運がない。それも悲しいほど。ギルドは野郎だらけで女性はおらず、昔からの顔なじみばかり。時折新規メンバーを募るが、攻略最前線を行くまでに成長したギルドに入ろうというものは少ない。そうなってくるともう、はぐれの高プレイヤーは女顔の黒い少年くらいのものだった。否、女顔でも男は男なので、結局のところ望み薄に変わりない。
時には中層プレイヤーの育成にも関わっており、出会いの場はなくはないはずだが、何故かみんなしてアニキとして接してくる。ここまでくると女性プレイヤーが少ないから、というよりはクライン自身の問題な気がしなくもない。
さて、そんな彼がギルドを連れ、今日の迷宮区探索を終えて主街区へ戻るその途中、ギルメンが何かを発見した。
「リーダー、誰かいますよ?」
「お?」
主街区と迷宮区とを繋ぐ道から、少し離れた木の下にプレイヤーがいた。昼を過ぎ、そろそろ夕方だが主街区へ戻らなくていいのだろうか。そう心配して声をかけた。
「おーい、そこのやつ。戻らねーのか?」
ギルメンを引き連れプレイヤーの元に行くと、そこにいたのは泣く子も黙る最強ギルド血盟騎士団副団長のアスナだった。
「え、あ、アスナさん?」
「あ、こんにちは」
声をかけられたことに今気づいたようで、ニコニコと挨拶を返す。いつにも増して上機嫌のアスナ。昔は血盟騎士団のアスナと言ったら“攻略の鬼”と恐れられ、トゲトゲしてツンツンしてて、何か冗談でも言おうものなら細剣でザクザク刺されても文句はないですよね? と、言わんばかりだったのだが、ここ最近は今日のように雰囲気が柔らかい時がある。そう言う時は決まってアイツがいるのだ。
「…………」
案の定、黒い少年がいた。それもアスナの膝枕で爆睡という、最前線の圏外であってはならない光景だ。何してるんだ、コイツ。
青筋立てて呆然と立っているクライン達を放って、アスナはキリトの寝顔を見つめた。
「良く寝てるでしょ?」
ふふふ、と自分の膝で眠る少年を見守る眼差しは正に慈母。恋する乙女を通り越して慈愛に満ちた雰囲気を醸し出していた。
ここでクラインは“しまった”と思った。アスナひとりなら問題ないが、少年と一緒の時は受けるがダメージがでかい。何のダメージかって、独身集団の俺たちに近づくんじゃねー! と怒りたくなるほど、この二人をセットにすると所かまわずピンクオーラを振りまくという有り様だった。
彼女の太ももを独占して熟睡している少年は、嘗て同情したくなるほど傷心していたのは知っている。アスナの方も、少年を追って傷ついたのも知っている。その二人がようやく仲直りできたと少年から報告を受けた時は、心から良かったな、と思った。が、しかし、それからというもの、ボス攻略の時は頼りになる彼らが、ちょっと気が緩むとすぐに一緒にいたがるというのはどうなのか。最近では、アスナが所属する血盟騎士団が、“アスナの機嫌予報”と称してキリトの動向を探っているという噂も聞く。キリトがアスナ以外の女性プレイヤーと一緒に行動していないかチェックしているのだ。もししていた場合、なるべくアスナと鉢合わせしないよう調整しているらしい。そこまで副団長の機嫌を恐れているのである。
つまりは、今ここで幸せそうに、アインクラッド最大のアイドルであるアスナの膝枕で寝ている少年の行動一つで、攻略全体が左右されてしまうのだ。
本当に、こいつは…。
まさかそんなことになっていると知らずに眠り続ける少年。そうとう気持ち良いのか微動だにしない。
言いたいことは多々あれ、今はさっさと主街区に戻る方が良いだろう。もう一度アスナに声をかけた。
「あの、戻らなんですか?」
「そうですね、そろそろ戻らないと危ないですよね。おーい、キリト君。そろそろ起きよ? 帰るよー」
「…ん。ヤダ…、まだ寝る…」
「もう、仕方ないなー」
「…………」
ガキか。いや、ガキだけど、アスナさんの膝でイヤイヤしてんじゃねーよ。
相手のいない独身軍団にとってはかなり目の毒だ。ガリガリHPが削られていく。しかもキリトが寝返りを打ってイヤイヤしたことによって若干、アスナのスカートが捲れた。いつも戦闘中に気になって仕方ないシステムに保護された部分がほんの少しだが見える。“GJキリト!”と小さく叫ぶ者もいたが、露わになった生足に触れるキリトの手が見えると、一気に“退け、クソガキ!”に変わる。アスナもアスナで特に咎める訳でもなく「くすぐったいよ」としか言わない。終いにはアスナの細い腰に腕を回し、むぎゅっと抱き着いた。
「甘えん坊さんだねー」
「…………」
甘えん坊じゃねーよ、生足触ってんじゃねーよ! お前わざとか? わざとやってんのか、コラ! そしてアスナさんも、とっととソイツ叩き起こせよ!
「…あの、アスナさん?」
俺たちもう帰って良いですか?
もういろんな意味でクライン達のHPがレッドゾーンに達している。さっさとこの場から立ち去りたい。たとえ圏外でもこいつらなら生きて帰れる。何の問題もない。そう思って帰ろうとすると、眠りこけていた少年がようやく起きた。
「ん…? クライン?」
「…よう、キリト」
「おはよう、キリト君。よく眠れた?」
「…ああ。ありがとうな、アスナ。やっぱ、たまには外で昼寝しないとな〜」
そう言って、アスナの膝枕で仰向けに寝返って伸びをする。まだ起き上る気はないらしい。
「今度は私がお昼寝したいよ」
「じゃあ、次は俺が番な」
「うん、ありがとう。私もキリト君のお膝で寝て良い? 昔みたいに」
「…おう、どうぞ。こんなので良ければ」
「やった!」
目の前でうふふ、あははと典型的な恋人たちの会話を聞いて、怒らずにおれようか。だがひとつ言っておくのはこの二人はまだ幼馴染という間柄だ。それなのにこの雰囲気は何だ。
「…キリト。お前ぇ、そこに直れ」
「は?」
クライン達が抜刀してキリトを追い回したのは仕方がない事と言える。
「ちょろちょろ逃げんなー!!」
「逃げるに決まってるだろー! 落ち着け、クライン!」
「てめぇ、ぜってーわざとだろー!! 人の気も知らないで!」
「何のことだー!」
「みんな頑張れー」
一人離れてのんびり観戦するアスナだった。
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