3ヶ月の…

□3看病
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違和感

ある日の朝、いつものようにジョギングから帰ってきた和人は、朝食とお弁当作りに勤しむ明日奈を見て、何やら違和感を感じた。
「…明日奈、何か顔、赤くないか? 熱でもあるのか?」
「へ? 大丈夫よ?」
「なら良いけど…」
本人が大丈夫だというのなら大丈夫なのだろう。受け答えもしっかりしている。しかし、違和感は消えない。言い知れぬ不安を抱いたまま、浴室へ向かった。
けれど、和人の悪い予感は直に現実となる。明日奈が体育の授業中に倒れたのだ。着替えて戻った時に、お弁当の一件以来、“明日奈の大事な人”と勝手に認識された和人は明日奈の友人達から聞き、保健室へと急いだ。
「明日奈!」
「桐ケ谷君、ここは保健室だから静かにね?」
「す、すみません…。あの、明日…、結城さんは?」
保健室には保健教諭の姿だけ。後は一か所、カーテンが引かれたベッドがあった。和人に「彼女ならそこで寝てるわ」と指さす。
「ただ、少し熱が高いわね。結城さん、桐ケ谷君よ? 起きてる?」
カーテンを少し引いて寝ている明日奈に声をかける。ボーっとしているが、大丈夫そうだと和人を呼ぶ。
「…和人君?」
「良かった。倒れたって聞いたから…。熱があるならなんで言わないんだ」
「大丈夫だって思ったんだもん」
和人からのとげのある視線から隠れるように布団に潜る。いつも弱みを見せないように毅然とした態度しか見せない明日奈が、子どもの様に駄々をこねている。初めて見る姿に、教諭はつい笑ってしまう。彼女にもこんな姿があったのだと安心した。
「とりあえず今日は帰りなさい。タクシーを呼んであげるから」
「ありがとうございます。あの…」
明日奈の代わりに礼を言う和人だが、少々遠慮しながらも言葉を続けようとした。しかし教諭も事情は知っている。
「わかってるわ。貴方も一緒に帰りなさい。結城さん、帰っても一人なんでしょ?」
「はい。今日は家政婦さんも休みで…」
「そんな…、それじゃあ、和人君に悪いわよ」
教諭の勧めに声を上げたのは明日奈の方だった。学生の本分は勉強だ。それを自分のせいで邪魔をしたくない。一度学業は修めていたとしても、今はこの学校の学生なのだから学校を優先すべきだ。
でもそんな事は和人に関係ない。預かってきていた明日奈の着替えが入った袋をサイドテーブルに置き、さっさと着替えろと言って教諭と一緒にカーテンから出る。その間際に一言付け加えておいた。「体調管理が出来ないやつに言われたくない。帰るぞ」と。
そこまで言われると従わざるを得ない。しぶしぶ着替え始める。
カーテンの外では待っている間に、教諭に「心配なら心配してるってちゃんと言葉にしたほうが良いわよ?」と揶揄われる和人の姿があった。
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