3ヶ月の…

□間接ポッキー
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間接ポッキー

11月に入り、紅葉が綺麗な時期になったと思っていたら気づけばもうすぐ冬になる。北から徐々に雪の知らせを耳にするようになったころ、親友の里香から「はい」とあるものを渡された。
「何これ、お菓子?」
「小腹も空くと思って。あげる」
「え、良いの? ありがとう」
「仲良く旦那と分けなさいね」などと余計なことを言うので「違うわよ!」と否定するのが日課となって久しい。
「何で私があの人と分けないといけないのよ」
そう言いながらパッケージを開ける。
「あたしは旦那と分けてねって言ったのに…」
「良いじゃない。友達と分けたって」
なんだかんだ言ったところで食欲の秋。目の前に広げられれば欲しくもなるもので、同席していた珪子と二人、御呼ばれに預かることにした。
「で、こんなところで何やってるの?」
いつもならスーパーの安売り目がけ一目散に二人で帰っていそうなのに、明日奈一人で教室にいた。片割れである同居人はどうしたのか。
「ん? なんでも、お友達から助っ人に頼まれたらしくて、手伝いに行ってるの」
強いて言うなら荷物持ち。倉庫と化していた部室を片づけたいから手伝ってくれと頭を下げられ渋々旅立っていった。時間がかかるから先に帰るよう言われていたのだが、何故かここで待つと言ったらしい。
「一人で帰るのが心配なら途中まで一緒に帰ってあげるけど」
「ううん、大丈夫。あの人にはしっかり荷物持ちしてもらわないと」
今日は買いこむのだ。そう張り切る友人に「色気なんてないわね」とぼやいた。

「明日奈?」
教室前を通りかかった同居人に声をかけられ、ポッキーを咥えたまま振り向いてしまった。一緒にいた和人の友人達が「やばい、可愛すぎだろ…」「あのポッキー欲しい…」とかなんとか言ってる横で、和人が「まだ帰ってなかったのか」と荷物を持ったまま明日奈たちの席に近寄る。
「だって、君には食費分、しっかり働いてもらわないと。今日の買い物リスト、見せたでしょ?」
「…でもあれってタイムセールとかだったような」
「そう思うんだったらさっさと終わらせてきて」
「はいはい…。でも、そうあからさまに食べてるの見せられると、こっちもやる気無くすんだけど。俺にもちょうだい」
「え…」
あげたいのは山々だが、明日奈が食べていたのが最後の一本。そう伝えると「じゃあそれで良い」と言って半分残して手に持っていたポッキーに口付けた。
ポキッという音でさらに半分になったポッキー。
モグモグ食べながら「ごちそうさん」とのたまう同居人に、「チョコの部分だけ食べるな!」と叫ぶ明日奈がいた。
「…さしずめ“間接ポッキー”ってところ?」
そんな怒れる明日奈の後ろで冷静に状況を見ていた里香の一言で、更に彼女がパニックになったのは言うまでもない。

夕食後、何事もなかったかのように買い物を済ませ、夕食を終えたのだが、和人からすれば明日奈の様子がどこかおかしい。笑顔ではいるのだが、何か怒っているのは間違いない。心当たりと言えば放課後、彼女が食べていたポッキーを強奪したことだろうか。
そんなに食べ物に執着していたのだったら申し訳ないが、明日奈からして食べるよりは作る方にこだわりがあるのは知っている。だからそこまで怒るとは思っても見なかった。ここは素直に謝った方が良いんだよなと思いつつも気づけば食後。洗い物する和人の傍に、普段ならリビングのソファーで本を読んでいるはずの明日奈がやって来た。
「和人君、はい」
「ん? うぐっ」
振り向いたのと同時に口にポッキーを差し込まれた。
「あ、ありがと」
「どういたしまして。食べたかったんでしょ? いっぱいあるから好きなだけ食べてね?」
そう言う彼女の手元には、これでもか! と言うほどポッキーの山。日頃から倹約に努めている彼女らしからぬ行動に、本当に怒らせてしまったのだと知る。
「あ、あの時の事はごめん…。すみません、もうしません」
「何のこと? ほら、まだあるから」
笑顔でポッキーをぶすぶす和人の口に刺していく。
「お皿、もう洗ったの?」
こんな状況で洗えるか!
手を泡だらけにしたまま明日奈が刺すスピードに負けじと顎を動かしていたのだが、さすがに限度というものがある。何せ途中から一度にさす量が二本、三本と増えていったのだから。
「もうあんなイタズラしない?」
ポッキーの空き箱が数箱ころがる台所で、和人が涙目になり始めた頃、ようやく明日奈の猛追が止まった。和人としてはイタズラしたつもりは毛頭なかったのだが、反論する気力も体力もないので素直に頷く。
口の周りをチョコまみれにして、やっと終わったと最後の一本を噛みしめながら食べていると、明日奈が「じゃあ許してあげる」と言って和人の口から出ていた半分を取って行った。
「…………」
「…ひ、他人が食べてると食べたくなるって最初に言ったのは君だからね!」
「そ、そうですね…。ごめんなさい」
自分が食べていた残りが他人の、それも異性の口に入る。実はかなり恥ずかしかったんだと身を以て知った和人だった。
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