読み物

□そのいち
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『………』
「………」

私と男の子は一定の距離を保ったままお互いを凝視。いや、男の子の方は思いっきり私を睨みつけてるけど。

この状況、どうしようかな…

この男の子が何者なのかは置いておいくとして、重要なのはここは店で、さっき開店したばっかり。ここじゃあ朝とはいえいつお客が来るかわからない。

『…ちょっと待っててね』

私が動いたことで鋭くなった男の子の視線を気にしないようにして紙とペンを持って店から出る。

”本日は諸事情により休業いたします。”

紙を扉に貼っつけて札を”close”に変えた。今日は休む。
警戒心バリバリの子供を放置して接客ができるわけないし、放り出すのも気が引ける。もしも迷子なら交番に連れて行くなり家に送るなりしなくちゃいけない。

まぁ、まずは話しを聞かなくちゃ何にもわからないけど。

『えーと…君、どっから来たの?』

男の子の目線に合うようにしゃがんで問いかけてみる。

「ふざけるな!お前が連れてきたんだろ⁉︎」

結果:誘拐犯になった。

『いや、私君のこと知らないし、
誘拐する理由とか何もないからね?』
「とぼけるな!」
『んー…惚けてないんだけどなぁ』

まったく話が噛み合わない。
もしかしてそういう遊びなのかな?今時の子ってわからない…

そんな事を考えていると男の子はとんでもない事を口にした。

「お前も俺を殺すためにやとわれたんだろ⁉︎」
『………は?』

え、この子今殺すって言った?え、誰が?

『…………え、私が?…何で⁉︎』
「…ぇ?…ち、ちがうのか?」

私が狼狽えすぎて男の子の方が戸惑ってる。てか、なんでこんな年端もいかぬような子どもが殺すとか言ってるの⁉︎

「なら、ひとさらいか?
…俺をさらってもだれも俺なんかの心配しないぞ」
『、え?』

さっきまで興奮していた男の子は自分よりも混乱している私を見て冷静になってきたのか、声を荒げることはせずに静かにそう言った。

目を伏せた男の子を見て、私の方も頭が急激に冷めていく。

「俺に価値なんてないんだ。
だから、とっとと殺すなりなんなりしろよ。
帰ったってどうせ、俺の居場所なんてないんだから…」

男の子は哀しそうな、それでいて、どこか諦めたような顔をする。

『………』

…あー、ダメじゃん

___いいかい、誘。

そんな顔をしないで、

___子供の一番素敵な顔はね、

『………』
(スッ、
「ッ⁉︎⁉︎」

___笑顔なんだよ_

手を伸ばして、俯いていた男の子の頭に手を置く。男の子の肩が大きく跳ねたけど気にせずに、なるべく優しく、ゆっくりと手を動かす。

「な、なにしてっ、」
『大丈夫、大丈夫だから』
「っ、……」

顔を上げた男の子にしっかり目を合わせて、

『私は、君を攫ってないよ。』

嘘じゃないと伝わるように、優しく、優しく撫で続ける。

『君を、傷つけたりなんかしないから』

心を込めてそう言った。
嘘じゃないから、どうか信じて…

「っ、ほ…」
『ん?』
「……ほんと、に?」
『うん、本当に。さ、こっちにおいで?
私に、君の話しを聞かせてくれる?』
「、…うん」

手を引いて私の部屋に連れて行く。
弱々しく握り返される手は小さくて、強く握ったら折れてしまいそうだけど、すごく温かい。

(手をつなぐなんてひさしぶりだ)

(あったかいな…)

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