咥えタバコとハンケチ
□00:その名は
4ページ/4ページ
僕の名前は敦。
故あって餓死寸前です。
院を出されてから多分一週間が経ち、
金もナシ、アテもナシでお先真っ暗。
ゆらゆら歩いてたらこんな処まで歩いてきてしまっていた……何処だここ。
一週間何も食べてなく、近くにあった川に自身をうつすと身体はがりがり、目元には隈、これが自分だとは信じられない、いや、信じたくない。
「…最終手段として、生きるために自身をを売る、という最低最悪な策もこんな容姿では無理だろうなぁ。腹も空いたし……あぁ、食べ物のことを考えると……それしか考えられなくなる」
茶漬け、鍋、寿司、拉麺、白飯だけだって構わない……
「こんな目にあうのも全部、アイツ(虎)の所為だ!行く先々でアイツに襲われそうになるし……何で僕ばっかり……」
ここに来るまでにも2度ほど会った、
しかも目の前に。
幸運なことに助かっているが、恐ろしさからかいつも気を失っていた。
肉が食べたい、あぁ、そういえば、虎も肉だ、美味しいのだろうか……。
お腹空いた、何か食べたい、肉、肉、人もそういえば肉だっけ??
美味しいのかなぁ、食べたいなぁ。
-ビクッ-
「……!この感じ近くに……!!」
ふと見た川に
僕と、虎が。
意識が……
「うわ、…いきなりビンゴ??
軍警察も彼奴らも何してるんだって話だよね、少年?」
馬鹿にしたような、でも綺麗で女だか男だかわからないような中性的な声が聞こえた。
って、
「逃げて…下さいッ!馬鹿ですか、すぐ近くに虎がっ……!?」
「…….ん?あ、そうか」
戸惑ったような、惚けたような声を最後に……
-ドクン-
「おーおー、立派な虎じゃないか
カッコいい。うーん、使い熟すの大変そうだな…でも、殺すには惜しい」
虎が男に向かう。
その目は獲物を狩る野獣、一噛みでもされればもう逃げられないだろう。
静かな夜で綺麗な満月が出ていた、
川に映り黄色が揺れる、
さらさらと音を奏でる川と獣の鳴き声。
帽子をくっと深く被り男は一言、
「大宰、君の力を借りてやろう」
と呟き、
愛おしむように虎の頭に指を触れた。
その瞬間、虎はたちまち先程まで叫んでいた少年の姿に変わり、襲いかかろうとしていた体勢のまま男に倒れこむ。
少年が落ちてきた衝撃により、
男も地面に身体を打ち付けたようだ。
「……っと。うーん、軽いね、少年」
それを無理にどかそうとはせず、
男は抱きつくように腰に手を回し、腹などを探る。
「御飯を奢ってあげよう」
-中島敦が大宰に出会うまで後4日-